第9回 道具6「現地スタッフ教育マニュアル」
前回のその8に続いて解説します。
1.現地スタッフの実力を最大限に伸ばすために
海外工場で物流パフォーマンスを上げるために欠かすことのできないアイテムが現地スタッフの教育です。いくら日本人スタッフが声を張り上げても現地人のスタッフが動いてくれなければ物流業務を貫徹することはできません。日本では物流スタッフに十分教育していなくても問題はなかったかもしれませんが、海外ではじっくりと時間をかけマニュアルを活用して教育を実施しましょう。
2.物流現場スタッフの教育マニュアル
倉庫や工程間運搬などを担当する現場スタッフには第一に安全マニュアルを作成し、事故のない作業を心がけるように指導していきます。物流は機器を使った仕事や重量物を運ぶ作業など、危険がつきものです。したがって機器の扱い方、部品等の安全な持ち方、安全上やってはならないこと等を明記した安全マニュアルの整備が最初に必要となるのです。第二に、物流現場では物流機器を扱う仕事が多いため、これらの点検マニュアルや操作マニュアルが必要になります。フォークリフトの始業点検マニュアル、月次・年次点検マニュアルなど、原則として日本で保有しているものを翻訳して持っていけばよいでしょう。ただし、法令が国によって異なるため、この点について注意が必要です。第三に、標準作業書に基づく作業マニュアルを準備します。個々の作業は標準作業書にしたがって行われるため、標準作業書をマニュアルとして使用することは一向に構いません。できれば監督者向けに仕事の教え方マニュアルを用意しておきます。監督者は「①作業をしっかりと説明し、②自らやって見せ、部下にやらせて見せ、③教えた後の観察を行う」というステップで仕事を教えなければなりません。また、よくできた作業者を褒める、部下とのコミュニケーションをよくとる等についても記しておきます。それ以外に必要と思われるマニュアルを図1に示します。
図1.現場スタッフ教育用主要マニュアル
3.物流技術・改善スタッフの教育マニュアル
物流は設計段階が最も重要です。なぜなら、一度作ってしまった物流工程を変更することは困難だからです。100kmの輸送を前提とした工程を作れば延々とその輸送が発生し続けます。これは、工場内物流でも同様で、直結化されない工程を作ればその間の運搬がずっと続くのです。そこで、物流技術・改善スタッフには物流拠点や工場、倉庫などの設計の基本がわかる教育マニュアルを準備します。彼らのスキルとしてレイアウトや工数算出などの技術的な論点のみならず、道路や港湾などの将来的な整備計画等の情報入手とその影響を読み取る力も必要になります。マニュアルの中にはこういった見落としがちな項目についても網羅しておくことが重要です。
技術的な論点の中には、IE知識の教育をぜひ入れておきます。物流では、IE的な発想がないためにロスを抱えながら作業を行っているケースが多いようです。よく物流にはIEはなじまないという発言をされる方がいますが、これは大きな誤解です。IE知識があれば物流をダイナミックに改善できます。さらに荷姿技術についてのマニュアルも必要です。物流の根幹は、この荷姿です。輸送効率や運搬効率、保管効率や物流設備投資に至るまで、すべて荷姿しだいで変わってくるのです。荷姿設計の基本について、現地スタッフにしっかりと教え込めるだけの内容に作り上げたいものです。その他は、図2を参照して下さい。
図2.物流技術・改善スタッフ教育用主要マニュアル
4.将来的な本社幹部候補を視野に
せっかく現地スタッフを教育するので、将来的には本社スタッフの位置付けになってもらえるようにしていったらどうでしょうか。これからは海外に進出するような会社は、グローバルカンパニーという位置づけになると思われます。今までは日本人が進出先に指導に行っていたかもしれませんが、これからは、各国で育ったスタッフが、別の国の工場設立や指導に寄与できるような体制を構築していくことが望ましいでしょう。このようなことまで視...
野に入れた教育マニュアルを作成しておくと非常に効果的です。
図3.物流現場での正しい仕事の教え方
最後に注意点とし、現地人スタッフ育成にあたっては「相手をリスペクトする」ことを忘れてはいけません。とかく上から目線で教えている人を見かけるますが、それは現地では受け入れられません。場合によっては「教える人向けの心得マニュアル」も必要となることを付け加えておきます。
図4.海外におけるマネジメントの心得
この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。