TOCのスループット会計

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1. 変化する状況に適切に対応し続けるためには

 SCM   サプライチェーン・生産システムは、材料を注文し、入荷後に加工することで付加価値を付け、出荷と同時に、または期間を経てから対価としてお金を回収します。モノは、ほぼ川上から川下へ垂直方向に流れます。お金は、モノの経路を逆向きに進む流れと、人件費を含めた業務費用として各生産システムから出ていく流れがあり、さらにお金があれば利益としてカウントされます。ただし、借入金がある場合は、金利とともに金融機関へ返済する流れが別途ともないます。
 
 SCM・生産管理の領域では、サプライチェーン・生産システムの資金増大を目的に、在庫最少を方針として採用しています。手法を挙げればトヨタ生産システム・リーン生産方式・CONWIP・制約条件の理論(TOC: DBR・S-DBR)などのように多様ですが、どれも在庫不足を避けつつ、在庫最少を実現するためのものです。
 
 サプライチェーン・生産システムは、販売状況を含め常に変化し続ける状況に置かれているので、俊敏かつ適切に応じ続けなければなりません。しかし、方針・手法は在庫最少に限定されています。ここで米軍にも採用されているTOCの提唱者、ゴールドラット博士の言葉を振り返ると、1番の敵は「方針制約」です。サプライチェーン・生産システムが変化に直面し続けていても、方針が常時1つだけということは、まさしく方針制約にとらわれているとみてよいでしょう。
 
 以上から、変化する状況に適切に対応し続けるために、在庫最少以外の方針を提案することが求められているといえます。そして在庫最少の方針と使い分けることで、状況への適応をより適正に遂げ続けられると考えられます。
 
 なお、SCM・生産管理の要点はQCD(品質・経費・納期)なので、スケールを考慮して、モノ、キャッシュ、タイミングに拡張して読み替えると、モノのタイミング、キャッシュのタイミング、そしてモノのタイミングとキャッシュのタイミングのタイミングを要点として採用できます。モノのタイミングは、JITのように在庫最少につながりますが、キャッシュのタイミングは盲点とみてよいほど全く取り上げられてきませんでした。要点に関わらず盲点だったことから、キャッシュのタイミングまたそれに近しいコトを新しい方針に採用し、モノのタイミングと併用すべきといえるでしょう。そのうえでモノのタイミングとキャッシュのタイミングのタイミング、すなわち、2つのタイミングの両立をねらえるようになるといえます。キャッシュのタイミングは、一定期間のお金の出入りで利益を創ること、支出よりも回収が多いことにつながる調達を示します。つまり、利益継続の方針・手法です。なお、モノのタイミングとキャッシュのタイミングのタイミングは、在庫を満たし続けるとともに利益を継続して創り続ける、つまり、モノもキャッシュも手許に十分あり続ける状態になります。
 
 在庫最少の方針では、その実現のため、販売や制約工程との同期によって調達は自動的かつ一義的に決定されます。過剰在庫が滞留するよりは資金が多くなりますが、月単位に区切ってお金の出入りを計測すると、必ずしも利益を示すだけではありません。支出額が回収額・手許資金・借越限度額を超えれば借入金の発生です。
 
 利益継続の方針では、どの手法を採用しても、月単位にみて利益が負となるとき(損失)に、利益を示すように、そして在庫不足とならないように調達を(数月に分散させて)前倒します。調達による支出額の多いことで損失ならば調達はなめらかに安定化されるでしょう。販売による回収額の少ないことで損失ならば、その月につながる調達は前倒されて少なくなり、他の月は安定化されるでしょう。
 

2. 在庫最少方針の手法への応用

 こうした手続き(「精査」)の工数を省くことを考えます。損失をみつけて前倒すのでは、間に合わなくなる恐れもあるので、そもそもの損失自体を予防して少なくするのです。精査では利益へ変換することで調達が安定化されます。これを応用し、順序を入れ替え、調達を安定化させて損失を未然に防ぐことをねらいます。
 
 また、せっかく安定化させるので、需要変動増幅現象(ブルウィップ効果)の解消も並行させます。(サプライチェーンの情報共有を欠くと)川上ほどこの現象により激しく拡幅した注文を受け、在庫・在庫能力・生産能力を過剰にし、材料価格上昇にもつながりかねないからです。生産システムだけをみても、対策しないと販売よりも調達の変動は拡幅し過剰在庫を抱えるので、配慮が必要です。
 
 安定化は単純に、調達に販売の変動より狭い範囲(上限・下限)を設定するだけです(「範囲」)。在庫最少をねらうと難解な数学を援用して計画立案するか、トヨタ生産システムのようにツールや仕組みを要します。利益継続の視点では、利益のために工数を抑制すること、そしてサプライチェーンのどの経路でもセットできることをねらい、単純なやり方を提案しています。
 
 ここまでみてきた精査・範囲は、利益継続方針の手法として、単独でも並行させても、既存の在庫最少方針の手法へ応用可能です。精査の工数削減をねらい範囲を提案しました。同様に範囲の工数削減をねらい「会計」を提案します。すなわち、上限・下限がセットされていても、それらを超えにくい調達を算出する手法の提案です。
 
 ここで、極めて狭い範囲を振動する調達を仮定し、その幅を狭め続けると、限りなく線に接近し、ついに新たな線の出現となります。この新たな線は、範囲内に位置する利益を創りやすい調達を示し、具体的には平均注文やそれに準ずる変数となります。新たな線の示す調達に平均注文を採用してもよいですし、平均注文に対して生産システムの状況に応じた振動を与え、より適正な注文につなげることも提案できます。
 

3. TOCのスループット会計

 生産システムの状況の把握には、その目的のためにある管理会計を採用することが近道です。生産システムの状況を調達へ反映させる管理会計としてTOCのスループット会計(TA)を採用します。TAは生産システムの状況をROI(投下資本利益率)という1つの値(百分率)で示すことができます。ROIは、利益を全在庫の材料評価額で除すこと(利益/在庫)で得られ、在庫から何%利益を得るかを表します。すなわちROIは、モノのタイミングにつながる在庫とキャッシュのタイミングにつながる利益を...

1. 変化する状況に適切に対応し続けるためには

 SCM   サプライチェーン・生産システムは、材料を注文し、入荷後に加工することで付加価値を付け、出荷と同時に、または期間を経てから対価としてお金を回収します。モノは、ほぼ川上から川下へ垂直方向に流れます。お金は、モノの経路を逆向きに進む流れと、人件費を含めた業務費用として各生産システムから出ていく流れがあり、さらにお金があれば利益としてカウントされます。ただし、借入金がある場合は、金利とともに金融機関へ返済する流れが別途ともないます。
 
 SCM・生産管理の領域では、サプライチェーン・生産システムの資金増大を目的に、在庫最少を方針として採用しています。手法を挙げればトヨタ生産システム・リーン生産方式・CONWIP・制約条件の理論(TOC: DBR・S-DBR)などのように多様ですが、どれも在庫不足を避けつつ、在庫最少を実現するためのものです。
 
 サプライチェーン・生産システムは、販売状況を含め常に変化し続ける状況に置かれているので、俊敏かつ適切に応じ続けなければなりません。しかし、方針・手法は在庫最少に限定されています。ここで米軍にも採用されているTOCの提唱者、ゴールドラット博士の言葉を振り返ると、1番の敵は「方針制約」です。サプライチェーン・生産システムが変化に直面し続けていても、方針が常時1つだけということは、まさしく方針制約にとらわれているとみてよいでしょう。
 
 以上から、変化する状況に適切に対応し続けるために、在庫最少以外の方針を提案することが求められているといえます。そして在庫最少の方針と使い分けることで、状況への適応をより適正に遂げ続けられると考えられます。
 
 なお、SCM・生産管理の要点はQCD(品質・経費・納期)なので、スケールを考慮して、モノ、キャッシュ、タイミングに拡張して読み替えると、モノのタイミング、キャッシュのタイミング、そしてモノのタイミングとキャッシュのタイミングのタイミングを要点として採用できます。モノのタイミングは、JITのように在庫最少につながりますが、キャッシュのタイミングは盲点とみてよいほど全く取り上げられてきませんでした。要点に関わらず盲点だったことから、キャッシュのタイミングまたそれに近しいコトを新しい方針に採用し、モノのタイミングと併用すべきといえるでしょう。そのうえでモノのタイミングとキャッシュのタイミングのタイミング、すなわち、2つのタイミングの両立をねらえるようになるといえます。キャッシュのタイミングは、一定期間のお金の出入りで利益を創ること、支出よりも回収が多いことにつながる調達を示します。つまり、利益継続の方針・手法です。なお、モノのタイミングとキャッシュのタイミングのタイミングは、在庫を満たし続けるとともに利益を継続して創り続ける、つまり、モノもキャッシュも手許に十分あり続ける状態になります。
 
 在庫最少の方針では、その実現のため、販売や制約工程との同期によって調達は自動的かつ一義的に決定されます。過剰在庫が滞留するよりは資金が多くなりますが、月単位に区切ってお金の出入りを計測すると、必ずしも利益を示すだけではありません。支出額が回収額・手許資金・借越限度額を超えれば借入金の発生です。
 
 利益継続の方針では、どの手法を採用しても、月単位にみて利益が負となるとき(損失)に、利益を示すように、そして在庫不足とならないように調達を(数月に分散させて)前倒します。調達による支出額の多いことで損失ならば調達はなめらかに安定化されるでしょう。販売による回収額の少ないことで損失ならば、その月につながる調達は前倒されて少なくなり、他の月は安定化されるでしょう。
 

2. 在庫最少方針の手法への応用

 こうした手続き(「精査」)の工数を省くことを考えます。損失をみつけて前倒すのでは、間に合わなくなる恐れもあるので、そもそもの損失自体を予防して少なくするのです。精査では利益へ変換することで調達が安定化されます。これを応用し、順序を入れ替え、調達を安定化させて損失を未然に防ぐことをねらいます。
 
 また、せっかく安定化させるので、需要変動増幅現象(ブルウィップ効果)の解消も並行させます。(サプライチェーンの情報共有を欠くと)川上ほどこの現象により激しく拡幅した注文を受け、在庫・在庫能力・生産能力を過剰にし、材料価格上昇にもつながりかねないからです。生産システムだけをみても、対策しないと販売よりも調達の変動は拡幅し過剰在庫を抱えるので、配慮が必要です。
 
 安定化は単純に、調達に販売の変動より狭い範囲(上限・下限)を設定するだけです(「範囲」)。在庫最少をねらうと難解な数学を援用して計画立案するか、トヨタ生産システムのようにツールや仕組みを要します。利益継続の視点では、利益のために工数を抑制すること、そしてサプライチェーンのどの経路でもセットできることをねらい、単純なやり方を提案しています。
 
 ここまでみてきた精査・範囲は、利益継続方針の手法として、単独でも並行させても、既存の在庫最少方針の手法へ応用可能です。精査の工数削減をねらい範囲を提案しました。同様に範囲の工数削減をねらい「会計」を提案します。すなわち、上限・下限がセットされていても、それらを超えにくい調達を算出する手法の提案です。
 
 ここで、極めて狭い範囲を振動する調達を仮定し、その幅を狭め続けると、限りなく線に接近し、ついに新たな線の出現となります。この新たな線は、範囲内に位置する利益を創りやすい調達を示し、具体的には平均注文やそれに準ずる変数となります。新たな線の示す調達に平均注文を採用してもよいですし、平均注文に対して生産システムの状況に応じた振動を与え、より適正な注文につなげることも提案できます。
 

3. TOCのスループット会計

 生産システムの状況の把握には、その目的のためにある管理会計を採用することが近道です。生産システムの状況を調達へ反映させる管理会計としてTOCのスループット会計(TA)を採用します。TAは生産システムの状況をROI(投下資本利益率)という1つの値(百分率)で示すことができます。ROIは、利益を全在庫の材料評価額で除すこと(利益/在庫)で得られ、在庫から何%利益を得るかを表します。すなわちROIは、モノのタイミングにつながる在庫とキャッシュのタイミングにつながる利益を一緒に1つの値で示すので、SCMの要点と照会した生産システムの状況によって、調達の新たな線を簡単に振動させることができるといえます。SCM・生産管理と管理会計を直接つなぎ、意思決定支援に用いるのです。
 
 利益が多いか在庫が少ないと多く、利益が少ないか在庫が多いと少なく調達するように、会計の数式は下の通りとします。実際の適用には実態に沿うように調整するとよいでしょう。
 

     調達 = 平均注文 × ( 100% + ROI )

 なお平均注文未満 (ROI:負)では在庫が多いと多く調達することとなり、在庫が多いと少なく注文することと矛盾します。ROIが負の場合は範囲の下限を採用する等の場合分けが考えられます。
 

4. 精査・範囲・会計の補足説明

 精査はモノのながれと異なるタイミングとなるキャッシュのながれを単位期間ごとに正となるようにするものです。独特な挙動をみつけるなど、今後の課題は多くあります。
 
 範囲は、TOCで制約工程という1つの値が提案されていることに基づき、制約ではなく利益を創りやすくするように調達のピーク値を低めるために考案しました。このことは最も単純なブルウィップ効果対策につながります。
 
 会計ではTOCのTAを応用しました。本提案のTAでは在庫も利益も、発注後の入荷時点の見込とすることを理想としています。また、利益は入荷時点から1月さかのぼっての期間程度の集計値を採用します。実績値による在庫と利益の関係をみて、TAの数式を調整してから調達に採用するとよいと思います。
 

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この記事の著者

青柳 修平

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