製品設計の「規範」: 機能・性能・仕様の使い分け
2016-07-01
設計とは、前工程からのインプット(要求事項)を、図面や仕様書などのアウトプットとして後工程へ渡す一連のプロセスのことです。設計からのアウトプットは後工程から見るとインプットとなります。
図1.設計とは
これらインプットやアウトプットとしてやり取りされる情報は、文字や図形など様々なものが含まれるますが、大きく機能、性能、仕様に分類することができます。普段から何気なく使う単語ですが、設計においては意外と深い意味があります。しかも、その分類を使いこなすためには、ある程度の経験とノウハウが必要になります。
機能、性能、仕様のそれぞれの意味を表1に示します。例はプラスチック材料について記載しています。
表1 機能、性能、仕様の違い
辞書の意味を見るよりも、英語や例を見た方がピンと来るかもしれません。設計者は前工程からインプット(要求事項)を指定され、図面や仕様書をアウトプットして後工程に指定します。これらの指定が機能、性能、仕様のどれに分類されるかによって、またそれぞれの立場の違いによって、表2に示すようなメリットとデメリットがあります。
表2 指定方法の違いによるメリット・デメリット
これらは典型的なトレードオフ問題であり、どちらがよいかは簡単に答えが出るものではありません。ただし、一般的には以下のように説明されることが多いようです。
・生産委託先が自社にない高いスキルを持っていれば機能や性能で、そうではなければ、仕様で指定す
る。
・生産委託先へ機能や性能で指定することばかりをやっていると、自社の競争力が低下する。
・電子機器など技術の変化が早い業界へ生産委託する時には、機能や性能で指定する。
・利益が取れない下請企業は、仕様で指定されている企業であることが多い。
インプットとアウトプットのそれぞれにおける、機能、性能、仕様の使い分け事例を紹介します。
表3はプラスチック容器の商品企画書に記載する内容の一例です。
表3 プラスチック容器のインプットの例
規模の大きな組織では、設計者は商品企画部門から企画書を受け取ります。商品企画書は機能、性能、仕様が混在して指定されていなすが、抽象的な概念である機能や性能で示されることが多いようです。どの分類で指定するかについては、企画者にとっても表2で示したようなメリットとデメリットがあります。その指定の仕方は、企画者の腕の見せ所でもあります。設計者の能力を引き出しつつ、コストや納期を守れるようなインプットでなければならないからです。
表4は成形加工メーカーに対して指定する、プラスチック材料に関する仕様書の一例です。プラスチック材料は、配合がノウハウとなっています、成形性と密接な関係があることなどから、設計者が詳細な仕様を指定できない(しない)ことが多いようです。一方で、ブラックボックスである材料の配合に起因する不具合も少なくありません。設計者にとっては扱いづらい材料です。
表4 プラスチック材料のアウトプット(仕様書)の例
成形加工メーカーのスキルや保有する設備は千差万別です。プラスチック材料は、スキルのない成形加工メーカーに対して機能や性能で指定すると、それを仕様に落とし込めないことがあります。また、スキルの高い成形加工メーカーに仕様で指定すると、その仕様が原因で成形不良が出たとクレームがついたり、彼らの能力を引き...
出せなかったりします。成形加工メーカーのスキルやその他の状況を総合的に判断して、どのように記載するかを決めなければならないのです。
国際規格は以前から仕様ではなく性能で規定されています。また、国内の法規制関連においては「仕様規定から性能規定へ」というのが流れです。建築関係の法規制は1998年の建築基準法の改正から始まり、徐々に性能規定化が進められてきました。電気用品安全法も技術基準が性能規定へ改正されました(2014年)。設計者は単純にこの流れに乗ればよいわけではありません。これまで説明してきたように、機能や性能で指定することと、仕様で指定することにはそれぞれメリットとデメリットがあります。それらを踏まえた上で、どのような指定方法が一番良いのかをよく考えながら、設計を進めることが重要です。製品設計のキモの一つは機能、性能、仕様をうまく使い分けることです。