デザインによる知的資産経営:各部門の役割(その1)
2016-07-05
知的資産経営において、企業の知的資産を集積して利用することが重要であり、全部門の力が必要です。今回は、そのために企業の各部門がどのように知的資産経営に関わるかについて解説します。
日本企業の経営の特徴は「全員野球」だといわれることがあります。トップダウンを特徴とする米国の企業経営との対比における評価です。「日本企業の得意戦法は、実行部隊を意思決定に関与させ、計画の推進力で勝負するというものでした。・・・日本企業に顕著な特徴は、実行部隊の技能形成を促して、現場で判断を下せるようにするための工夫と解釈することができます。」(「どうする日本企業」196頁 三品和広 2011年 東洋経済新聞社)。これに引き続き同書では「ここで指摘したいのは、この戦法が機能するためには重要な必要条件があるという点です。その条件とは、推進力を発揮する場を定める指揮官の存在に他なりません。」と指摘しています。
また、三品「戦略不全の論理」(2004年 東洋経済新聞社)201頁には、トヨタ ケンタッキー工場の組立ライン班長の言葉として、「班のメンバーが会社のために良かれと思っていろいろやってくれるのはよいのだけれども、彼らの気持ちを傷つけることなく、彼らの好意から出る行為が会社のためになるようにすることが一番難しい」という言葉が紹介されています。すなわち、指揮官である社長が、その意思をしっかりと従業員に伝え、浸透させなければならない、そうでないと「社長の意思」と「社長の意思を推測する」従業員の行動とに齟齬が生じてしまうということです。
中小企業の場合、多くは社長が指揮官となって直接指揮を執っているでしょう。しかも、在任期間は長く、安定して指揮を執ることのできる立場にあります。加えて、社長と従業員の距離が近いことが多く、数百人規模の企業であれば、社長はほとんどすべての従業員の顔と名前が一致していると思います。社長は個々の従業員を思い描きつつ指揮を執ることができます。この点は中小企業の大きな利点であると思います。短期的な株主利益を追求する必要もありません。
長期政権であるからこそ、社長は自分の意思をしっかりと従業員に伝え、強力な指揮を執らなければならないのです。そんなことは従前から心がけている、という社長は大勢いるでしょう。そのような経営者は、従業員は自分の意思をおおよそにおいて理解している、と思っているのではないでしょうか。従業員は、本当に、社長の意思をおおよそ理解しているのでしょうか。一度冷静に振り返っていただきたいと思います。
話は少しずれますが、中小企業の社長さんの中には、腹を割って話し合える従業員がいない、と悩んでいる方もいるようです。会社の中に腹心がいないということですね。幹部従業員であっても腹を割って話し合えないということ自体、彼らに社長の夢、意思が伝わっていないことの裏返しではないでしょうか。企業の夢、企業理念が共有されていないのではないでしょうか。日常の話し合いのなかで、当面の売り上げであるとか顧客の開拓であるとかだけを話題にしていては、社長の意思を彼らと共有することはできないでしょう。
先に掲げたトヨタのライン班長の言葉も、原因はそこにあります。従業員に社長の夢、意思、企業理念が正しく伝わっていれば、「彼らの気持ちを傷つけることなく、彼らの好意から出る行為が会社のためになるようにする」という遠回りをせずとも、「班のメンバーが会社のために良かれと思っていろいろやってくれる」ことがそのまま、会社のためになるでしょう。
「デザインによる知的資産経営」を行...
うために、社長がまずなすべきことは二つ。まず、会社をどのようにしたいのかというグランドデザイン・企業理念を明確にして従業員に深く浸透させることです。次は、各部門から開示される情報を検討し、企業理念と照合して方向性を決定し、指揮官として指揮力を発揮することです。「デザインによる知的資産経営」の出発点は、企業理念の明確化です。図1参照。
図1.社長の立場