デザインによる知的資産経営:企業理念の具体化(その3)
2016-07-28
企業理念はあくまで「理念」であって具体性に乏しいものです。何か新しい企画が提案されたとき、それが企業理念に適合しているかどうかを判断することは難しいでしょう。そのため、企業理念を具体化した規範が必要になります。この規範は企業理念とは異なり、必ずしも数十年にわたる内容を目指すのではなく、10年程度のスパンで企業経営の規範になるものと捉えればいいでしょう。また、企業理念よりも具体的であることから、複数の事業分野を持つ場合は、事業分野ごとに策定することになります。
このような規範を策定する意義は、企業経営のブレをなくすことにあります。この規範を参照しつつ経営判断を行うことによって、企業経営、具体的には企業が開発する商品のブレをなくし、ブランドの構築に資することができるのです。
SWOT分析で企業の方向性を発見し、それに企業理念や主観的な夢のフィルターを掛けて規範を決定する手順が有効です。ただし、SWOT分析で得られた方向性のみを「正解」とするのではなく、企業理念や夢のフィルターを掛けることが重要です。分析結果だけに着目すると企業理念や夢が消えてしまいかねません。SWOT分析は、企業理念の規範化の手段にすぎないことを忘れてはなりません。さもないと、前述したとおり他の企業と横並びになってしまいます。
SWOT分析については多くの書物で紹介されているので、詳細についてはそれらを参照していただくとして、概略を述べると以下のようになります。SWOT分析とは、自社の「強み」(Strength)、「弱み」(Weakness)、「機会」(Opportunity)、「脅威」(Threat)をマトリックスとして整理するもので、それぞれの頭文字を取って SWOT 分析といいます。自社の成長戦略を創出するため、これら4つの要因をクロス分析していきます。
企業理念の規範化との関係でいうと、SWOT分析によって得られた比較的具体的な結果を抽象化し、クドいようですが、企業理念や夢のフィルターを通して規範化することになります。このときに重要なのは、SWOT分析は「企業理念を具体化するための資料探し」であるという視点を念頭に置くことです。また、それとの関係のもとで、知的資産を具体的に書き出していくことが重要です。
経財産業省の資料では下記のようなSWOT分析の具体例が示されていますが、キッコーマンのように地位が確立されている企業であるのならともかく、普通の企業の場合、こ...
の程度の分析(誰でもできる情報の羅列)で「企業理念の具体化」を行うのは不可能でしょう。地をはいつくばって具体的な情報を収集することが重要です。商品開発に役立つ情報の可視化は重要ですが、「弱み」に関する情報の可視化も欠かせません。また、企業理念の策定と同様に、歴史、専門性、俯瞰、時代性の観点を意識することも必要であり、特に時代性の観点が強まります。次回は、その4、最終回として、企業理念の具体化の事例を解説します。