デザインによる知的資産経営:知的資産はどうすれば保護されるのか(その2)

 前回のその1に続いて解説します。
 

2.知的資産の評価・保護

 

(1)企業理念

 
 企業理念は企業経営の方向を指し示すものであり、これを具体化した規範も同様です。いずれも企業の「考え方」であり「思想」です。自社の立ち位置を明確化し、他社と差異化するには、企業理念を広く周知する必要があります。なお、「思想」を保護する法律はありません。他社が同じ企業理念を持つことを規制することは無理です。
 
 ワンフレーズではないので、商標としての保護は困難です。他方、文字にされた企業理念、例えば「私たちは、多くの人々との出会いを通じて、新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造します」(資生堂)のようなものは、著作物として、著作権法で保護される可能性があります。他社が、その企業理念を同じ文章で表したときにはやめさせることが可能かもしれません。しかし、他社が同じ表現で企業理念を表すことはほとんど考えられないでしょう。
 
 では、企業理念を具体化した「規範」はどうでしょうか。これらは企業の商品や役務とともに、キャッチコピーとして使用されることもしばしばあります。次項で話すブランドづくりのキーワードでもあります。比較的短いフレーズが多いので、著作権法での保護は難しく、商標法による保護が認められる場合が多いことに留意してください。例えば、以下のような登録例があります。
 
  「水と生きる」(サントリー:登録第4884535号)
  「一瞬も一生も美しく」(資生堂:登録第4929296号)
  「The Power of Dreams」(ホンダ:登録第4599911号)
 
 なお、特許庁の審査基準では、「標語(例えば、キャッチフレーズ)は、原則として、本号(筆者注:商標法3条1項6号)の規定に該当するものとする」とされています。しかしながら、以下のように長いものも登録されています。「Passion for Innovation.\Compassion for Patients.」(第一三共:登録第5550402号)
 

(2)ブランド

 
 ブランドは商標権で保護される――、というのが一般的な理解ではないでしょうか。しかし、この理解には2つの落とし穴があります。
 
 第一の落とし穴は、商標権は「商標(文字や図形)と指定商品・指定役務(その商標をどのような商品・サービスに使うのか)との組み合わせで成立している」ということです。商標登録を受けたとしても、他人の使用を排除できる範囲は、「指定商品・指定役務」で画されています。極端なことをいえば、A社が「(アナログの)カメラ」のみの商標権を保有しているとき、他社が「デジタルカメラ」に同じ商標を出願すると、B社に登録が認められる可能性があります。B社が使用したとしても、商標権に基づ
いて「やめろ」ということは難しいのです(特許庁の扱いにおいて、デジタルカメラは電子応用機械器具であって、デジカメとカメラは非類似の商品であるとされています)
 
 もっとも、A社の商標が周知であると特許庁で認められれば、B社の出願は拒絶される可能性があります(商標法4条1項15号)。これを補うのが不正競争防止法です。同法は、他人の商品・役務と出所混同するおそれのある表示を使用することを禁止しています(不競法2条1項1号)したがって、A社の商標が周知(需要者に広く知られている)であれば、不正競争防止法に基づいて使用の差し止めを求めることが可能です。
 
 このような商標法と不正競争防止法とのギャップを埋める制度として、商標法64条で「防護標章登録制度」が規定されています。これは、自己の登録商標が広く知られている場合、自己がその商標を使用しない商品・役務についても登録を認め、第三者の使用を禁止できる制度です。防護標章登録を受けるにはたくさんの資料を用意しなければならないと思われている方も多いようですが、誰もが認める著名商標であ...
れば、資料を提出せずとも防護標章の登録を受けられる場合があります。
 
 第二の落とし穴は、「商標権等による商標の保護は、ブランド価値を保護するための一つの手段にすぎない」ということです。
 
 商標保護の目的は、同じ商標が他人に使用されないことにより、商標の裏にあるブランド価値を保護することです。ブランド価値を維持し、高めるためには、企業理念に沿った商品・役務を提供し続けることが必要です。商標の知名度とブランド価値がイコールでないことは、昨今の食材偽装問題によって、読者の皆さんも十分に理解されていると思います。
 
 次回は、2.知的資産の評価・保護の(3)商品の形態(狭義のデザイン)から、解説します。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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