『価値づくり』の研究開発マネジメント (その20)
2017-02-03
今回はオープンイノベーションに抵抗する心理として、NIH(Not Invented Here)シンドロームについて解説します。
NIHシンドロームとは、そのまま訳すと「ここで発明されたものでない」という意味で、自社ではなく外部で生まれた発明には興味が持てないということを意味します。自分の子供は自分の分身なので可愛い、だめな子供でも可愛い、しかし他人の生んだ子供はどんなに優秀でも可愛くても本人にとっては可愛くないというのと似ていると思います。『まま母の精神構造です』このNIHシンドロームの存在ゆえ、研究者はオープンイノベーションという外部発の技術、アイデアの利用には抵抗を示すということが起こります。
企業の研究開発の場でなぜ研究者はこのような心理を持つかを考えると、次のような原因があるように思えます。
研究者には、自分自身のオリジナリティの創出という強い欲求があるからだと思います。回りからもそのオリジナリティ創出を賛美してほしいし、自分自身の満足としてもそのような成果を挙げたいということがあるのではないでしょうか。
(1)のようなオリジナリティ追求の心理があるため、外部のアイデアは自分のオリジナリティを創出する上では、脅威を及ぼす「敵」となり、心理は内向きで外を見ないようになります。その結果、外部のアイデアを知る機会がなくなり、自分のアイデアだけに頼るということになります。
そもそも、民間企業における研究開発の最終的な目的はより多くの収益を実現することにありますが、研究者においては、もちろんのその点は認識はしているものの、自分の専門分野で研究成果という実績を挙げることが、あくまで中心の目的であり、収益への貢献の認識が弱いという問題があります。
特に収益創出においては、Time to the Marketはオープンイノベーションの経済学の中でも議論したように、大変大きな影響要素です。そのような認識がないため、このTime to the Marketを犠牲にして、上で述べたオリジナリティを追求に邁進してしまうということが起こります。
上記(1)~(4)のような原因があるとすると、それぞれに以下のような対応策をとっていけば良いことになります。
まずは、研究開発部門の中には、人間の心理として必ずNIHシンドロームが存在することを強く認識し、マネジメントとして常に警鐘を鳴らすことです。
オリジナリティそのものは、収益に直結はしません。むしろ、最終的に大きな収益を生むための様々な工夫を実現するクリエイティビティがより重要です。企業文化や組織の価値観として、オリジナリティよりも、大きな収益を実現するための、様々なクリエーティブな思考や活動を重視すべきです。
ここまで議論してきたように、オープンイノベーションは「本質的に正しい」活動です。その理由を十分研究開発担当者に啓蒙する必要があります。
ッションにいて『収益創出』を強くうたう
そもそも民間の研究開発部門はより大きな収益を挙げることに直接的に貢献しなければなりません。この点をそのミッションの中で強くうたうことが必要です。
特に上記の(4)を実現するためには、Time to the Marketは大きな影響因子です。
NIHシンドロームへの対応は、上記のロジック(競争の回避、収益期間の拡大、プロジェクトの現在価値の向上)を組織に説明・周知することが重要です。