◆『5S』の目的と効果
【コストダウンへの取組み】において、『5S』はとても重要な役割を果たします。あらゆる仕事の効率性を向上させる活動(=改善活動)においても基本中の基本であり、すべてを網羅する活動とも言えます。しかし、浸透・定着させることがこれほど難しい活動も少ないかもしれません。その分、徹底・継続させることで、良い組織文化を醸成し、厳しい市場競争を勝ち残るための底力をつけてくれる最良の方法でもあります。
今回は、この『5S』という活動の持つ本来の目的や効果を切り口に、如何に浸透・定着させることで組織文化を変え、コストダウンにつなげていくかを考えていきます。今回は、その1です。
1.『5S』の定義
整理:いるものといらないものを分けて、いらないものを捨てること
整頓:いるものを使いやすいように、置き場所を決めて置くこと
清掃:いつでも使えるように、きれいに掃除すること
清潔:整理、整頓、清掃された状態を維持すること
躾 :決めたことを守らせること
このように、『5S』とは整理・整頓・清掃という具体的な取組みを、清潔・躾という仕組みにおいて定着させることにあります。この場合の定着とは、すなわちそれ(5S)ができていることが当たり前の風景にすることであり、組織文化変革へのチャレンジを意味するのです。
2.『5S』の活用範囲
まずは、目的や狙いに入る前に『5S』の対象範囲というものを考えてみます。製造現場を中心に展開されている活動ですので、当然「モノ」が中心と考えられがちですが、広い汎用性を持った活動であることがご理解いただけると思います。
(1) 最初に取り掛かる『整理』ですが、この対象は所謂『モノ』ではありません。仕事そのものを対象にして、「その仕事の最終的な成果物が価値を生んでいるかどうか?」という視点で必要な仕事のみをピックアップすることが重要なポイントになります。本当に価値を生んでいる仕事と、価値を生んでいない仕事に仕分けるわけです。むしろ、【必要】を明確にすることで、それ以外の不要を洗い出す訳です。
本来、『5S』を行う上では、このような考え方をベースにした作業整理が非常に重要となります。仕事の目的を果たすためにその作業は本当に必要なのかどうか、価値を生んでいるかどうかという視点で作業を見直し、それに合わせて必要なモノや情報は何か、置き場はどこか、置き方はどうあるべきか、このような流れで整理・整頓をかけていく必要があります。さもなければ、単なる整列となり、見栄えは良いが作業品質や生産性の向上になにも寄与しない、形だけの活動に陥ってしまいます。
『5S』が浸透・定着しない大きな原因はこの点にあると考えられます。現場目線では実際の仕事をやりやすくすること、経営的には作業品質と生産性向上に寄与すること、これらがなければ継続するためのニーズが出てきません。
(2) どのような職場にも、情報や資料は存在します。この、情報や資料をモノに置き換えて考えてみれば、当然のことながら整理・整頓は重要な活動となります。例えば古いデータが放置されてパソコンの動きが遅くなった、あるいは必要な情報がどこにあるのかわからないから検索に時間が掛かっているなどということは、多くの職場に共通した悩みではないでしょうか。
また、2直~3直対応の職場やコールセンターなどでは、引き継ぎ情報がうまくつながらないという事象も多く発生しますが、これなどは整頓ができていない結果だと言えます。必要な情報が使いやすい状態に置かれていないと考えられるからです。
(3) 営業活動の重要なツールである名刺なども、『5S』の効果が出やすい対象のひとつでしょう。営業担当者が個別に持っている状態は、会社としては顧客情報が整頓されていない状態だと言えます。異動などによる情報の更新も難しく、引き継ぎなどにも意外と手間取ってしまうものです。得意先のキーマンの動きを含め、社内で共有できていないことは多いのではないでしょうか。
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どのような切り口で取組み、活用するかによって、多様な職種で効果を生むのが『5S』です。また、活動自体にはあまりコストはかかりません。有効に活用していただきたい所以です。
3. ふたつの目的、5つの効果
『5S』には、ふたつの目的があります。ひとつめの目的は、【売上を増やして、コストを下げる】ことです。企業における全ての活動は利益につながる必要があり、そこに繋がらない活動には意味がありません。ふたつめの目的は、経営に寄与する継続的活動を通じた、【良い組織文化の醸成】です。
『5S』は、短期的な活動ではありませんが、短期的に効果が表れない活動でもありません。やればやるほど、短期的にも長期的にも大きな効果が表れます。その代り、継続できなければ意味をなさない活動でもあります。期間限定の◯◯週間ではなく、習い慣れる方の習慣化こそがこの活動の要諦となります。
次回は、その2として、『5S』の効果について考えていきます。