普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その17)
2017-12-01
前回は、「常識を継続的に書き換える3つの活動」の中の最後の3つ目の「常識を書き換える活動を組織の定常活動として組織に組み込む」の解説をしました。前回からの続きという位置づけで、今回もこのテーマを解説します。
日本企業が大事にする言葉に、『現場』があります。私は『現場』は極めて大事だと思いますが、日本企業の『現場』重視には多少違和感がります。なぜなら、多くの場合、明示はされていませんが、「現場の重視」は「思考の軽視」とセットで語られるからです。「君は、頭で考えてばかりいて、現場を見たのか」という感じです。
しかし、『現場』は思考のための材料を提供しているからこそ、重要なのです。その「思考のための材料」とは何か、それは、前回議論した『本質』を示してくれる材料です。現場がそのようになっているのには、必ず原因があります。
世の中は、すべからく原因があってその結果があるという仕組みで動き、存在しています。その原因をたどっていけば、必ず『本質』に到達します。
それでは研究開発部門にとっての『現場』と何でしょうか、もちろん研究開発の『現場』、すなわち研究室、実験室、試作室等は『現場』です。この『現場』は研究者の主要な活動の場ですので、『現場』重視と言わずとも、当然重視しています。
しかし、もう一つ欠けている『現場』があります。それは『顧客』です。これまで何度か議論したように、民間企業で行う研究開発は最終的に大きな顧客価値を実現するものでなければなりません。なぜなら、顧客価値を実現し、それを提供するからこそ、『顧客』はその対価を払ってくれるからです。
基本的に、それ以外に継続的に収益を挙げる方法はありません。顧客の『現場』は、「顧客は何に対し大きな価値を認識してくれるか」についての本質につながる材料に溢れています。
顧客という『現場』を重視するという意味は、顧客のニーズに耳を傾けるということではありません。フォードモータを創業したヘンリー・フォードの有名な言葉に、「顧客に何が欲しいかと聞けば、彼らは足の速い馬が欲しいと答えるだろう」があります。
つまり、顧客が自らのニーズを理解している範囲は極めて限定されています。いくら顧客にニーズを尋ねても、自明の答えしかかえってこないことは多いものです。この点は様々な調査から明らかになっています。
それではどうしたら良いでしょうか。顧客の『現場』を数多く訪ね、五感で顧客を認識することです。顧客の『現場』は、机上の想像・思考では絶対に思い至たらないような様々な事実の宝庫です。
なぜなら、形式知化された知識は...
、まだ認識されていない膨大な知識のほんの一部に過ぎないからです。そして、認識した一つ一つの背景には、必ずその認識した事象の背景の真の理由、すなわち『本質』があります。
数多くの顧客の『現場』を知ることで、そして、その理由を徹底して考えることで、数多くの本質や複数の顧客に共通的にみられる本質を想定することができます。そのように数多くの本質を見出すことにより、イノベーションを創出し易くするという効果があります。