開発テーマの管理で最も難しいことの一つが、テーマの中止です。米国のステージゲートと日本のステージゲートについては前者が「多産多死」、後者を「少産少死」とよく比較されます。もともと、米国でもテーマの中止は難しいと考えられていますが、日本ではそれ以上に難しく、多くの企業でテーマは途中では中止されず市場投入にまで進み、その多くが失敗する、もしくは当初の目標を達成しないということが起こります。
テーマが中止されない理由には以下に挙げるように様々なものがあり、いずれもその抵抗力は大変強力です。
(1)プロジェクトチームのモラルが下がる
通常当事者であるプロジェクトチームは、プロジェクトを先に進めることを強く願っています。そのような環境下で、プロジェクトを中止することは、プロジェクトチームのモラルを大きく下げてしまいます。多くの企業において、テーマの中止は失敗を意味します。そのため、その後のプロジェクトチームメンバーの評価にも大きく影響します。また多くの場合テーマが中止になると、一時的にしても担当するテーマがなくなり、プロジェクトメンバーは社内浪人になってしまいます。
加えてその結果、プロジェクトチーム側から意思決定者に対する批判的な感情が生まれるということも起こります。テーマを中止して、評価者に感謝するプロジェクトチームメンバーはいません。このような感情は、その後の意思決定者のリーダーシップの行使に悪い影響を与えます。
(2)過去の判断が間違っていることを認めることになる
既に、このテーマにはとりあえず「ゴー」の判断をしていますので、いまさら中止にすると、初期の判断が誤っていたことを認めることになります。「なぜ後に中止しなければならないようなテーマを始めるんだ。きちんと、初めに調べて評価したのか?」という批判も起きかねません。
(3)未来は読めない
基本的に未来の全てを見通すことは不可能です。100%の自信を持って決断を下すということはありえません。本来的に、かならず躊躇の要素が存在するのです。
(4)既に上位の大きな戦略や計画の意思決定がされていて、後に引けない
テーマの中には、既に上位の戦略が決定済であり、本テーマがその戦略遂行の一部として取り組まれている場合があります。したがって、そのテーマを中止すると、その上位の戦略に少なからず悪影響を与える、もしくはその戦略自体成り立たなくなるということもあります。そのような場合、そのテーマ自体の事情でテーマを中止することには大きな抵抗があります。また、意思決定は現状ではなく、将来の姿に鑑みて判断をするわけで今後好転の可能性が多少ともあれば、中止せずに進めてしまおう。後はなんとか努力をしてつじつまを合わせよう、と考えるわけです。
社長などのペットプロジェクトもこの範疇に属します。社長が既に決めたことだから、とにかく中止せず前に進めよう。いまさら中止などできないということです。
(5)過去の投資が無駄になる
既にこれまで本テーマには投資をしてきたので、今中止したら過去の投資が全て無駄になってしまいます。しかし中止せずにテーマを進めれば、当初の目標達成は難しくとも、多少の回収はできる可能性はあります。まだ完成していませんので、努力の余地はあります。「プロジェクトチームにはっぱをかけて、また努力の積み上げをさせよう」と考えるのです。
(6)プロジェクトメンバーがどうせ遊んでしまう
そのテーマを中止しても後に有望なテーマがない場合には、そのテーマを中止すればリターンは間違いなくゼロですので、成果やリスクが当初の期待より悪化しても「何もやらないよりまし」、「メンバーを遊ばせるよりは良い」と考えてしまします。
(7)困難を乗り越えて成果を出すことが経営者や管理者の役割
優秀な経営者、意思決定者であるほど「そもそも経営に困難は付き物であり、この困難を乗り越えて成果を出すことが経営者や管理者(プロジェクトリーダー)の役割だ。何...
(8)既に予算も確保されているので、中止する大きな理由がない
以上のような理由で、意思決定者は中止に逡巡、躊躇するわけですが、もし予算がすでに用意されているならば、「まあ予算もあることだし、もう少し進めてみるか?進めても大きな問題はない」というように考え、予定調和的に進めてもおかしくはありません。
以上の8つの理由はいずれも単独としても、大変強力なテーマの中止の抵抗力として働きます。その上、テーマの中止の意思決定時には、これら8つは同時に束になってかかってきます。その結果、意思決定者にとってテーマの中止は大変困難になるのです。