気泡の発生 高品質スクリーン印刷標論(その5)
2018-04-11
高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその4に続いて解説します。
【目次】
「スクリーン印刷で、気泡が発生するのが当たり前」と思っている方が多いようですが、それは、間違いです。スクリーン印刷の気泡には二種類あります。最初からインキに含まれている気泡と図1のように印刷時にスクリーンメッシュ交点の影響で発生するものです。これは、メッシュバイアス方向に発生していることからメッシュ交点の影響であることが分かります。
図1. 気泡の発生
前者は、印刷前に十分に攪拌を行う事で脱泡が可能です。後者は、「版離れ」の際にスクリーンメッシュ交点の下側にインキが回り込まないことで発生すると考えることが出来ます。このような現象は、粘度が高いインキでよく発生します。では、粘度が高いインキでは必ず起こるかと言うとそうではありません。粘度が高くても全く気泡が発生しない、エレクトロニクス用の銀ペーストや絶縁ペーストが多数あります。
この違いは、インキの弾性特性です。「弾性」とは、「粘性」とともに、物質の「かたさ、やわらかさ」を表す指標です。スクリーン印刷用インキには、明確に「粘性」と「弾性」があり、前者...
は、流動のし難さ、後者は、力を伝え、変形を戻そうとする力で、これらを合わせ「粘弾性」と呼びます。
図2に、弾性が低い高粘度インキでの気泡発生のメカニズムを示します。ベタ印刷では、スクリーンメッシュの交点が基材表面に接触しています。スキージの充てん圧力で流動したインキに囲まれたメッシュが、「版離れ」で基材から短時間で離れます。この時、メッシュ交点の下に周りのインキが流れ込むことが出来ない場合、空隙ができて気泡が発生します。この時、インキの弾性が低いとスキージからの力が十分に伝わりません。粘度が高いと流動性が低いため、メッシュ交点下に空隙が出来きやすくなります。
図2. 気泡発生のメカニズム
現実には、粘度が低くても、弾性が低いと同じように気泡が発生しています。気泡が発生していてもインキの流動性が高いため、レベリング工程で印刷膜表面に移動し破泡します。このため、実用上は、問題なしとして使用している例も多くあります。しかしながら、破泡した部分が僅かに窪みますので、完全な平滑面を得ることはできません。
以上のように、スクリーン印刷での気泡発生の原因は、インキの弾性特性が低いためであると言えます。気泡発生をなくすためには、インキの弾性特性を高くすることが絶対条件であると言えます。
当然の事ならが、インキに消泡剤を添加することは、単に発生した気泡を印刷膜表面に集めて、破泡させているだけであり、根本的な解決策ではありません。また、粘度が高いインキでは、気泡が動かないため、消泡自体も全く効果がありません。
インキの弾性特性を評価するためには、粘弾性測定装置「レオメーター」でフローカーブや動的粘弾性を測定する方法があります。しかしながら、これらの測定は、あくまでも相対的な比較ですので、印刷性能が高いインキと悪いインキの両方を比較しないと判断が困難となります。
弾性特性が適正か否かの実際的な判断方法として、スクリーン版上でのインキの「ローリング」状態の観察をお薦めします。一般的にインキの粘度を高くしていくと、スキージングの際、インキがスキージに巻きあがり、「ローリング」しなくなる事があります。この状態は、弾性特性が不足していると判断できます。良好な「ローリング」のためには、流動しているインキに弾性特性が必要です。つまり、スキージ移動により圧縮され変形したインキの戻る力により実現されているものです。特に粘度が高い場合は、弾性特性が低いと良好な「ローリング」できず、きれいなローリングバー(ローリングする時のインキの棒状の塊)が形成できません。
図3は、私がこれまで経験した中で最も粘度が高い(推定300pa.S 測定不可レベル)銀ペーストを無処理のPETフィルム基材の上に印刷した30μmラインです。弾性特性が高く適正であったために、スキージ速度20mm/secで均一なローリングができ、安定した印刷が出来ました。
図3. PETフィルム基材の上に印刷した30μmライン
スクリーン印刷関連の技術者の中には、「インキ粘度を高くすると「ローリング」が出来なくなり印刷が出来ない」と考えている方も多いと思いますが、インキの弾性特性に着目して再評価することをお薦めします。