【関連解説:印刷技術】
高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその5に続いて解説します。
1. スクリーン印刷:パラメータ設定は、クリアランスから
スクリーン印刷は、スクリーン版と非印刷物の間にクリアランスを設定して、印刷の際に、スキージで押し下げたスクリーン版の反発力で「版離れ」をさせる原理です。このため、最初の印刷パラメータの設定は、適正なクリアランス量を決めることです。
適正なクリアランス量は、どのように決めるといいのでしょうか。簡単に言えば、「量産印刷でスクリーン版が塑性変形しない最大値」です。つまり、強度が低い、スクリーンメッシュの版では、テンションやクリアランスを小さくしなければ塑性変形します。
図1は、一般的なスクリーンメッシュの「引張力(テンション)―伸び」のグラフです。伸びが大きくなるとスクリーンメッシュは一定の範囲で「弾性変形」します。この範囲内での伸びであれば、スクリーン版は何万回伸ばしても元に戻ります。メッシュを「弾性変形」範囲を超えて伸ばすと、塑性変形が起こり、元に戻らなくなり「版のび」の不具合が起こります。逆に言えば、スクリーンメッシュの「弾性変形」範囲内でスクリーン印刷を行う限り、スクリーン版の「版のび」の不具合は起きないことになります。
図1. スクリーンメッシュのテンション
しかしながら、多くの印刷現場では、「版のび」の不具合が、初期の段階では発見しにくく、また、「版離れ」が困難なパターン設計や強度不足のメッシュの使用などで、クリアランス量の適正化が行われていないことが多いようです。
2. スクリーン印刷:スクリーンメッシュの強度
スクリーンメッシュの材料は、古くは、シルク糸、ナイロン繊維から始まり、ポリエステル繊維、ステンレス線材と強度が高くなってきました。スクリーンメッシュを選択する際には、線径、メッシュ数、開口率、厚みだけでなく、メッシュの相対強度を認識する必要があります。
私は、メッシュの相対強度の比較として、ステンレス325メッシュ(線径28μm)又は、ポリエステル250メッシュ(線径40μm)を基準とした「強度指数」を使うことを提案しています。
表1と表2に主なステンレスメッシュとポリエステルメッシュのそれぞれの「強度指数」と標準テンションを示します。メッシュの線材強度が同じで、メッシュ開口率が同等であれば、「強度指数」は、メッシュ数に反比例して小さくなります。表中のステンレスメッシュMSは線材強度が標準BSの1.3倍、HSDは2.5倍、です。
表1. ステンレスメッシュの強度指数と標準テンション
表2. ポリエステルメッシュの強度指数と標準テンション
3. スクリーン印刷:スクリーン版テンションの「標準」が無かったことが問題
「スクリーン版のテンションは、高いほうがいいか、低いほうがいいか」との議論がありますが、あまり意味がありません。印刷の際にクリアランスを採って印刷したときの伸びで「版伸び」させないことが重要です。これまで、スクリーン印刷業界でテンションの「標準」が無かったことが問題なのです。無いなら作ればいいのです。
私は、現在、メッシュメーカーや印刷装置メーカーと協力し、スクリーン版テンションと適正クリアランス量の「標準」を提案しています。スクリーン版のテンションは、テンションゲージSTG75Bでの値を採用しています。
「強度指数」=1.0以上のスクリーン版・・・・・・テンション0.95mm
1.0未満のスクリーン版・・・・・・比例してテンションを低下
ポリエステルメッシュは、業界の実情に合わせ「標準」テンションを少し低く設定します。
「強度指数」=1.0以上のスクリーン版・・・・・・テンション1.60㎜
1.0未満のスクリーン版・・・・・・比例してテンションを低下
4. スクリーン印刷:スクリーン版を「版伸び」させないクリアランスの「標準」
私が、20年前に42インチPDP基板にステンレス325メッシュで量産印刷していた経験から決めました。1700×1700mmのスクリーン版で、5.5mmのクリアランス量で、塑性変形なく2万回の印刷が実現出来ました。
この結果から、「標準」テンションのスクリーン版を「版伸び」させないで量産印刷できる、最大のクリアランス値を「標準」としました。「版伸び」させな...