高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその8に続いて解説します。
1. スクリーン印刷:ローリングのメカニズム
スクリーン印刷のメカニズムは、図1のように四つに分けて考えることで理解がしやすくなります。今回は、ローリングのメカニズムについて解説します。
図1. スクリーン印刷のメカニズム
スキージのストロークによりスクリーン版上のインキが前方下向きにローリングします。ローリングが安定しないインキは、弾性特性が低いとも考えられ、印刷性能が低いと言えます。弾性特性とは変形したインキが戻る特性であり、この特性があるため、スキージアタック面前方にローリングすると考えられます。
特に粘度が高く、弾性が低いインキは、ストローク中にスキージの上方に巻き上がり、安定した印刷はできません。インキの弾性を高めるような改質を行う必要があります。
また、よくある間違いですが、「ローリングでの下向きの力でスクリーン版開口部にインキが充てんされる」と思っている方が多いと思います。メタルマスクでの「コンタクト印刷」での充てんの解説でも「ローリングの力でインキが充てんする」と間違って解説され、広く信じられているようです。
スキージ角度がスクリーン版に対して70度の場合、図2のように、矢印の方向にインキがローリングしていると考えられます。一方、スキージの角度が90度でも同様にローリングします。90度は、スクレッパ角度と同じであり、インキがローリングしてもインキを充てんできないことは自明のことです。つまり、ローリングの力ではスクリーン版開口部へのインキの充てんはできないのです。
2.スクリーン印刷:ローリングの役割は、インキ粘度の均一化
ローリングの際のインキの流動の動きを図2のような矢印で示しましたが、実は、この矢印の方向にインキと流動していると考えるのは間違いです。これは、肉眼で見えるインキの流動を間違って認識して図示したものです。
図2. インキのローリング
ローリングしているインキは、スキージアタック面に接触してのローリングと併せ、スクリーン版上を横方向に移動しています。図3の右図は、ローリングバーのインキのある一点がスクリーン版上を右側に移動する挙動を示したものです。左図でスキージの先端に接触しているインキ①は、スキージ面からのせん断の力を受けて、粘度を低下させながら②③④の赤色の破線のような動きをしています。つまり、左図の矢印のように思われていた実際のインキの流動方向は、赤色破線のようになだらかな山形のように動きであり、⑤⑥①で、スクリーン版上に戻って留まることが分かります。このようなインキの流動の力では、スクリーン版の開口部への充てんの力とはなり得ないことは容易に理解できます。
図3. ローリングしているインキの挙動
インキの充てんの力は、⑤⑥①でスクリーン版上に留まったインキに対して、スキージアタック面から伝えられる圧力が加わることで生じます。この充てんのメカニズムについは、次回説明します。
以上のように、ローリングのメカニズムとは、ローリングバーの外周のインキがスキージのアタック面とのせん断力を受けて、粘度を低下させ、一定に維持することです。つまり、ローリングの役割は、印刷されるインキの粘度を一定にして、印刷安定性を確保するためです。
なお、ローリングバーの中心に近いインキにはせん断の力が伝わりにくいため、粘度は高い状態のままです。印刷性能が高いインキでの連続印刷で、インキの量が変化しローリングバーの大きさが小さくなっても、表面のインキ粘度は一定であるため、印刷品質には影響しません。但し、弾性特性が低く、印刷性能が低いインキでは、ローリングバーの大きさでその重さに違いによりインキの吐出性が変わることがありますので注意が必要です。
3. スクリーン印刷:ローリング性を改善する製品の効果は?
過去には、ローリング性を改善することが出来るという触れ込みの製品がいくつか発売されていますが、既にローリングできているインキで使用しても全く効果がありません。また、ローリング性が良くなったからと言っても印刷品質は向上しません。
例えば、スキージのアタック面の形状を曲面に変...