未来志向でコア技術を設定する 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その28)
2018-05-11
そろそろ自社の技術ではなく、社外の技術の収集の議論に移りたいのですが、私のところで起こったある出来事で、『未来志向でコア技術を設定する』ことを強調しておきたいと強く感じましたので、今回も前回に引き続き、コア技術について解説します。
先日ある企業の方が、社内でコア技術設定のプロジェクトを検討中で、話を聞きたいということで訪ねてこられました。そこで私は、前回、解説したように、コア技術は未来志向で設定することが前提であるという話をしたところ、自社の技術の棚卸、すなわち自社の強み技術から自社のコア技術を設定することを前提とすることを強く主張されていきました。
もちろん自社の強みを活用するということは、重要なことではありますが「範囲の経済性」という概念から、それと同様に、いやむしろそれより重要なことが、未来に目を向け、そこから自社のコア技術を新たに設定することです。
この会社の方と面会して強く感じたことは、「多くの日本企業はいまだ過去に生きている」ということです。
そこには大変重要な次の2つの事実があります。
現実には、技術成熟度という概念があるように、全ての技術はいずれ陳腐化します。技術が陳腐化するとは、その技術がもはや競争に勝つ道具にはならなくなるということです。多くの企業に広く普及してしまうからです。
日本企業の強かった技術が、今ではアジアの新興国のものになっているという事実に目を向けてください。
未来に目を向けると、新たな価値創出の機会が、泉から水が湧くごとくに生まれてくることに気が付きます。人間の欲望は止まるところを知りません。この人間の新たな欲望を充足するという活動や工夫が、文明を今あるものに発展させてきましたし、今後も人間が存続する以上同じことが続いていきます。
過去にこだわると、これら重要な2つの事実に対処することができないのです。
なぜ企業は過去に生きてしまうのでしょうか?それは、過去に起こったことは全て事実であり、過去は極めて明確だからです。一方で、未来は極めて不明確です。何一つそうなる確証はなく、大きな不確実性が存在します。
そのような不確実なことに基づき、経営をするということは、経営者や社員にとって大変怖いことで、どうしても確実な過去に目を向けてしまうということがあるのです。
「未来洞察」などという言葉がありますが、未来を洞察する能力を持っているのは神様だけでしょう。しかし、洞察まではいかなくても、現時点でも未来を考えることで、かなりのことをある程度の確度で想定し、準備することができます。そのような想定を他社に先んじて行い、準備をした企業が今成長しています。
今注目を浴びているようなGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などと言われる企業はそのような企業です。 もちろん未来のことを考えた企業が、全て成功する訳ではありません。しかし、確実に言えるのは、上で挙げた恐怖に抗して、未来を考えようとしなければ、絶対にGAFAと言われるような企業にはなれないことです。
目先のテーマに忙しくて、そのような未来のことを考える時間はないと考える研究者の方は多いで...
しょう。しかし、ちょっと考えて見てください。そのテーマ自体が、そもそも優先的に取り組むべきテーマなのか?
機会損失という概念を含め、その点の検討に十分な時間が掛けられているのかを考えることは、テーマ選択の大前提として極めて重要なのではないでしょうか?
未来を考えることに、多くの時間とエネルギーを使いましょう。
ここではKETICのK(Knowledge:知識)の議論をしているのに、T(Thinking:思考)の領域侵犯をしてしまいました。次回はK(知識)の議論を続けていきたいと思います。