品質問題の解決について以前説明した“ポカヨケと源流検査”は品質不良を起している原因(問題作業)が分っている場合に効果的ですが、新製品開発中の場合は何が原因なのか分らなくて試行錯誤していることが多いのではないでしょうか?そして、四苦八苦の末に、何とか原因を突き止めて不良率を下げ、市場に出した時にはライバルに先を越されていたという悲劇もよく耳にします。
QC7つ道具の特性要因図や実験計画法の直交表は、思い浮ぶ要因を取上げて分析し、要因を絞り込む(原因を特定する)方法です。もし不良が誰の意識にもない‘未知の要因’で起っているとしたら、それを探し当てるまで試行錯誤するしかないのでしょうか?
実は‘ある’のです。ご存じない方が多いかと思いますが、日本の品質管理の生みの親といわれる西堀栄三郎先生の愛弟子磯部邦夫先生が開発された、“KI法”(Kunio Isobe)という方法です。
こんな実話[1]があります。合成繊維の開発が盛んな頃、ある会社がこれで魚釣りのテグスを開発し‘強度抜群の新テグス’として売り出したところ、「テグスが切れて大きな魚を逃がした。強度抜群なんて嘘っぱちだ」という苦情が続出しました。会社は、「十分な強度を持たせてつもりだが未だ弱かったようだ」と考えて研究を重ね、更に強い素材を開発してテグスにし市場に出しました。ところが相変らず同じ苦情が続出したのです。(似たようなケースを経験しておられる方も多いのではないでしょうか?)
この話を聞いた西堀先生は、これは素材の問題ではなく素材のところどころに弱いところがあってそこで切れるのではないかとアドバイスしました。早速、長さに沿って素材の強度を測定したところ、ところどころに弱いところがあり、しかもそれはランダムではなく規則性があることを発見しました。次に先生は、後工程から順に遡って同じような規則性のある作業を探すようにアドバイスしました。探した結果、製品の巻き取りドラム(円筒形ではなく平たい長方形)の長辺と同じ間隔であることを発見しました。巻き取りドラムの長辺の角のところで曲げられ強度が大きく下がっていたのです。これを円筒形ドラムに変えたところ、最初に市場に出したものより弱い(細くて原価も安い)素材でも十分な強度のあるテグスが出来るようになり市場化に成功した、という話です。
KI法では、不良が出るのは“工程が安定せず、良品ができる時と不良ができる時で作業の仕方が何処か違っていて、その違いが不良発生の原因になっている”と考えます。そして、現場で虚心坦懐に工程を遡っていき、不良ができる時の作業の違いを突き止めるのです。
工程が安定しないのは、新製品の開発段階だけでなく、海外での生産にも言えます。日本と同じようにしていても、作業者が違い、気候が違えば機械のコンディションも違ってきて、日本では考えても見なかった要因で不良が発生することがあります。
筆者はかつてTQC盛んなりし頃、シンガポールでTQCの指導をした際に“中堅企業のTQC”という本の事例が素晴らしいので使わせてもらいました。その中の「結果が悪いのは工程が悪い・作業が悪いからなので、現物を手に現場で‘どこが悪いか突き止める’」という方法が気に入って実践し効果を上げました。またタイでも同様の方法で、慢性不良や突然の大量不良など会社がどうにも解決できず‘お手上げ’状態だった品質問題を解決して感謝されました。この時は、まだKI法と命名される前でしたが、とにかく海外で品質問題を解決する最有力な方法だと認識しました。
その後、タイで磯部先生の愛弟子のH氏に会いました。H氏はタイヤメーカーB社のタイ工場に派遣され、三級の品質レベルを一級の品質レベルに上げることに成功し、後にタイ天然ゴム協会から「タイのゴム産業振興に顕著な貢献をした」として特別表彰を受けられました。氏は、学歴は高卒、言葉は英語もタイ語もできない、ただ磯部先生の元で訓練され品質向上で実績を上げているということで、タイ工場立直しに白羽の矢が立ったのだということです。氏は、良品と不良品と2つの現物を並べて、現地の現場リーダーと作業者に、「(不良品を手にして)これはここがこう違うから不良なのだ」とよ~く説明し、その違いがどこで発生するのか最終工程から一緒になって遡っていって不良発生の原因を突き止める、ということを繰り返し繰り返しやられたのだそうです。(筆者も、シンガポール以来ず~っと同じようにやってきました。)
また、こんな話[1]もあります。ある会社の研究開発本部長は磯部先生の本を読んで、「シャーロックホームズの探偵小説を読んでいるみたいな印象でした。各事例...
参考文献[1] いずれも 磯部邦夫著“やさしいKI法”から