現場力を上げる融合とは CS経営(その10)

◆なぜ、分業課・モジュール化は人間性を阻害するのか

 

7. 現場力を上げるには「融合」しかない:せこい社員、社内遊泳術ばかり磨く管理職、太鼓持ちの達人

 顧客に支持される優れた戦略は、現場力を高め、顧客の支持を得ることにあります。ところが、企業内には「せこい社員」「社内遊泳術ばかり磨く管理者」「トップ層の受けばかり狙っている従業員・管理者・役員」もいて、そうした人間が出世することが、結果として他の優秀な社員のやる気を失わせるもととなるのです。そして、これを是とする組織も多く、日々、現場のやる気を削ぎ、現場力を弱めています。まさにそれは、「組織のがん」なのです。「組織のがん」は切除すれば治ることも多いのですが、放置しておくと全身に転移します。これでは「顧客のために」は死語でしかないでしょう。
 
 もちろん、他社と比べて優位になる要素は、顧客との良質で長いご縁を創造する関係性であるので、組織内の属人的な御身大切主義はそれに相反することになります。これでは現場力どころの話ではないのです。なぜかといえば現場力とは総合力であり、それは「顧客を大切にする」という組織愛を持つ現場同士の協力の産物であるからです。自部門内のコミュニケーション、他部門との連携、そして全部門・全機能がタテ×ヨコ×ナナメでつながり、立体的に融合する。これが組織力であり顧客から大きな支持を受ける姿であるのです。
 
 これが分業、モジュール化により寸断され、個の集まりになっていたのでは、顧客のためにはならないのです。企業・組織は何よりも顧客のために存在しているからなのです。
 
  
 

8. 現場力を上げるには「融合」しかない:現場力の源泉-「糊代」「オーバーラッピング」「作り込み」「融合」

 商品ではない株の売買、金融商品の売り買い、為替の乗り換えなどモニター画面に表示されるデジタル数字のやりとり、オペレーションで「金さえ稼いでいれば、株主は満足し、経営者の身も安泰。だから企業の在り方はこれが一番!」-そう考えて人材育成の積み重ねを、かなりの期間ないがしろにしてきた企業は多いのです。「白い猫でも黒い猫でも鼠を捕るのが良い猫だ」というのは郵小平の有名な言葉ですが、その裏側に暗黙のうちに存在する「どのような方法であったとしても、よく稼ぐ奴を評価する」という発想が主流を占めてきました。その背後に「顧客の支持を得て」が存在していればいいのですが……。
 
 反面、「顧客第一などと甘ったるい考えを持つ奴は馬鹿だ!」「金を多く稼ぐ経営者が正しい」「企業規模を大きくして、より大きな金を稼ぐ方法が強者の論理」という姿勢を採用している企業もあります。何を選ぶかは企業の考え方、企業理念・経営理念・経営者の哲学次第です。もちろん売上と利益を上げ続けることは重要です。しかし、そのための方法が大切なのです。日本の場合、全企業の99・7%が中小・小規模企業であり、「顧客のためによい仕事をする」「社会に貢献する」という考え方を持った経営者は多いでしょう。顧客から支持され、地域と共に Win-Win'Happy-Happyの関係で継続するためのきめ細かいコミュニケーション、顧客のための「満足製造業」「幸せ提供業」を担っています。世界で一番多くの老舗が存在する所以であるのです。
 
 元来、日本では、社員に対してスキルとテクニックだけを身につける促成栽培方式ではなく、しっかりと全方位的に資質を高める育成方式をとっていたのですが、これがなし崩しに、また意図的に減らされてきました。それでいて「付加価値を創造しろ」「相乗効果を発揮しろ」「自主的にチャレンジせよ」と、経営者によるご都合主義が横行しているのも実態です。しかし、人を育てることなしにそれは難しいでしょう。今までは過去に育成してきた「人」という資産を消費し続けてきましたが、それはさらに過去の企業が人を育てた資産の食いつなぎであり、食い潰しにあたるのです。いつまでも続かないどころか、すでに終わりは目前です。
 
 「人」「人材(財)」育成は、途中で止めてしまったなら、そう簡単に復活はできないのです。人は短期間で育てられないし、育ちもしないのですが、そもそも育てようとしないと育たないのです。人づくり、人育てこそ、付加価値の高いモノとサービスを生むパワー、源泉です。また、教養のある人は創造力を持っているという脳科学の分野の研究があります(茂木健一郎氏など)同様にデイビッド・スロスビーの『経済と文化』でも、教養・娯楽の延長線上に放射状に関連する各種分野との関連や組み合わせが創造性を生むといった主張がなされています。ほかに神経科学者、精神科医のナンシー・クーパー・アンドリアセンの著書『天才の神経科学』の主張にもそれが表れています。ともあれ、「改善」「改良」「革新」は人の得意技ですが、現在のコンピュータにはできないわけです。人工知能を備えたロボットでも雑談はできないのです。それは、教養がないからです。
 
 そして優れたモノ、サービスの創造は、企業への安定した「帰属意識」と「愛社精神」といった土壌に芽生えます。単に心・気持ちの伴わないスキル、テクニックを身につけ、これを武器に各社に「わが社は◯◯ができる」と売り込みを図るような発想(外資系や発展途上国の一部で見られる)ではなく、親しい職場の仲間との優しく温もり感のある家族ぐるみの...
付き合いによる終身雇用制といったところから、部門・部署、たとえばメーカーであれば、設計と開発・製造・販売の糊代をつなぐ融合を生み出すことが大切です。これがいわば多能エスタイルです。
 
 日本流おもてなし文化とコンピュータ文化を併用する日本式経営とアメリカ式経営手法の組み合わせ、融合が大切なのです。なお、多能工とは専門家であるが、専門性とは「山高ければ裾広し」「裾広ければ山高し」の関係にあるので、モノづくりでもサービス創造においても、多能工型が大きく貢献するのです。多能工の特徴は、次の面で顧客と企業に貢献しています。「生産性の向上」「スピードアップ」「価値あるモノーサービスの創造」「コストダウン」「ファン顧客の創造」「新規顧客の開拓」「資産の増加」など、ざっと挙げただけでも、多能工の特徴は顧客と企業に付加価値を提供しています。それによって、「業績=顧客の支持率」の達成、売上・利益向上、強い組織力などが企業にもたらされます。また、新業種・新サービスの開発、関連ビジネスの開発・展開、人材(財)育成などにも好影響を与えることになるのです。
 
 次回は、第3章 本物の顧客満足の話をしよう、です。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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