1.はじめに
筆者は10年余りにわたり、ものづくりコンサルタントとして華南での生産の生産効率や品質管理に携わってきました。先日は某協会でものづくりに関するセミナー講師を行ないましたので、概要を以下に報告します。話題のインドシナ各国の実情と今後の発展を見据えて、中国の生産をレビューし、生産の棲み分けについて一考した内容です。
2.インドシナ半島諸国
ASEANの中で生産基地として現在注目されているのはタイの周辺国家であり、先行するベトナム、そしてカンボジア、ミヤンマーです。いずれもタイや中国よりも安価な労働賃金が魅力で、ラオスを加えると人口も2億人近くとなり、市場としてのポテンシャルも大です。前向きな経済政策への移行で、中国はじめ多くの国が不動産に投資し、特に労働集約産業は日本に先んじて進出しています。
とはいえ、道路や上下水道、住環境、貿易に必要な輸送インフラなどの整備が大きな課題となっています。中国の生産の歴史を振り返れば、鄧小平による1992年の南巡で経済開放が具現化され、その後数年で急速にインフラが整備され、電気電子などの産業のすそ野が広がりました。インドシナ諸国の現状は中国がたどった初期段階にあると考えられます。ハイテクといわれる電子産業や車産業の生産が定着するには、規定や安全認証などサポート機関も必要であり、総合的に考慮すれば今後10年近くを要するのではないでしょうか。
3.中国生産をレビューする
中国政府は沿岸部と内陸部の経済格差解消策の一環として、沿岸部の企業の内陸移転を推進しています。すでにアパレルやバッグ、アクセサリー等労働集約型の工場の多くは内陸地域への移転が進んでいます。インドシナ諸国やバングラデシュに移転した企業もあります。今や沿岸部にはハイテク産業でない限り、進出や継続は認められない流れとなっています。
中央政府の政策に乗じたのが、内陸部の省や市などの地方政府であり、盛んに工業団地を整備し、企業誘致活動を行っています。作業者も集めやすく沿岸部の70%ほどの賃金ということもあり、電気電子の工場も進出や移転が始まっています。
中国の内陸部とは、河南省、四川省、河北省、湖南省、安徽省、湖北省、インドシナ半島と国境を接する雲南省や広西壮族自治区などです。いずれもフィリピンなどの中規模の国をも上回る人口と総GDPを誇ります。一人あたりのGDPもUSD2,500前後で、自動車保有の目安となる3,000ドルも目前です。
政府の内陸移転政策というフォローの風が吹いていることを考えれば、今はむしろ生産と市場の両面で注目すべきは中国内陸部と思われるのです。具体的には、インドシナ半島の生産環境の整備に時間がかかる、内陸部といえども労働集約型産業は海外への移転が進むので作業者は確保可能、沿岸部より割安な賃金などがあげられます。さらに、制度や貿易インフラは沿岸部の方式を容易に移植可能と考えます。移動が慣習ともいえる中国人と、多くの中国生産のノウハウを有し中国語を解する日本人が、引き続き活躍の場を内陸に求め貢献することは容易に推測できます。
4.市場
当面の生産棲み分けは以上ですが、少し市場という観点からも見てみましょう。
インドシナ半島では、インフラ整備関連の土木・建設、上下水道、通信、輸送関連が先行しています。 電子機器、車などの組み立て産業では、自国内での部品調達が不十分な状況から、タイや中国からの輸入部品を使用した生産品の販売・輸出が主力になると考えられます。人手不足でハイテク指向の中国沿岸部は自動化機器などに販売チャンスがあり、製品は輸出重視が推測されます。内陸部はあらゆる裾野産業の充実化がビジネスチャンスであり...
5.終わりに
以上、中国沿岸部はハイテク産業、注目はむしろ中国中部、時差を置いてインドシナ半島という組み立て生産の棲み分けを一考してみました。生産活動はその地域の産業をけん引するものであり、需要を喚起し経済の好循環を生み出します。
日本企業、そしてサポートする政府機関なども、現在の情報を的確にとらえてタイムリーに行動することを期待し、ものづくりをサポートするものとして今後大いに動向に注目していきたいと思います。
追記
日本と中国との関係が冷え込んでいるように思われますが、生産の現場では中国人、日本人がお互いに目標に向けて努力をしています。そこでは異なった国、考え、文化、習慣などを互いに認め合う懐の深さがある気がいたします。容易に崩れ去るようなリスクを感じないのは私だけでしょうか。