マクロ環境分析 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その36)
2018-09-07
前回から市場の知識を得る方法として、マクロ環境分析の解説をしています。今回も前回に引き続き、同様のテーマを解説します。
前回はマクロ環境分析の視点として、PESTとWHAT/HOWについて概略を説明しました。そのうちPEST分析は、マクロ環境分析と同義に使われる程、良く使われる言葉ですが、私はPESTの変形版のPESTELがマクロ環境分析を行う上では、より良いと考えています。
PESTELは、PESTのPolitical(政治)、Economical(経済)、Societal(社会)、Technological(技術)に、Environmental(環境)とLegal(法律)を加えたものです。次にPESTELの構成要素一つ一つについて、解説します。
Politicalは、政治の市場への影響を考える切り口です。例えば米国とイランの政治的な関係いかんによっては、中近東の安定が損なわれ原油価格が大きく変化し、最終的に経済活動そして個別企業の活動に大きな影響を与えます。
PESTにおけるPoliticalは、政治に関わる全ての大きな環境変化をもたらす因子およびその結果生み出される法律まで全てを対象としています。一方、PESTELにおいては、PESTのPoliticalの中の、政治から生み出される具体的な法律をLegalとして独立させています。
そのため、PESTELにおけるPoliticalは、最終的に法律に影響を与える政治環境の変化をもたらす因子のみを対象とします。例えば民主党政権の時代に、環境税が議論されましたが、その後の政権の自民党への復帰により立ち消えになってしまいました。
環境税自体はPESTELにおいてはLegalで議論されるべき内容ですが、Legalに影響を与える民主党から自民党への政権の復帰などの政権の動向などは、PESTELにおいては、Politicalで議論する対象となります。
その他のPESTELにおけるPoliticalとLegalの切り分けの例に、米国と中国との両国の政治などがあります。現在米中関係の悪化から、貿易戦争の状況を呈す状況が生まれてきていますが、当然この米中間の貿易戦争は企業の長期的な業績に大きな影響を与えます。
したがって米中関係の予測はPoliticalに属します。一方、どのような品目を対象にどのぐらいの関税が掛るのかといった想定は、Legalで議論されます。
このように企業の経済活動などに大きな影響を与える法律は、その具体的法律自体と最終的にはそこに影響を与える政治環境変化の因子と分けた方が、より精密でより深い議論ができるのではないかという視点から、私はPESTELをお勧めしています。
このPESTELの議論において重要な点が、Politicalは他の構成要素、すなわちEc(Economical)、S、T、En(Environmental)、Lにも影響を与えるものであるということです。
上で、PoliticalによりLegalが生み出され、また米国の政治(P)が米中の貿易戦争や原油価格の高騰などにより経済(Ec)に大きな影響を与える議論をしました。
政治(P)により、法律(L)を通し、社会構造(S)が変わる(少子化対策による子供数の増加)やAI技術(T)の促進や、環境対応製品(En)の拡大機会が生まれるなどの影響が生み出されます。
一方で、他の構成要...
素が政治(P)に影響を与えます。例えば地球温暖化(En)によりドイツの緑の党が得票率を拡大すること(P)や少子化(S)により少子化対策を積極的に進める小池百合子氏が東京都知事に選ばれたり(P)、中国政府のAI開発推進を受け(T)、日本政府も同様の政策を展開する必要性の発生(P)などが考えられます。
この点はPだけでなくPESTEL全般にも言えることで、PESTELの構成要素は、それぞれ構成要素間で因果関係を持ちながら存在するという点を忘れないようにしましょう。
次回もPESTELの解説を続けていきます。