「おもてなしの神髄」 CS経営(その49)

 
 
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

13. 3つの約束事が組織を変えた:株式会社JR東日本テクノハートTESSEI

(1) 海外からの喝采

 「新幹線の掃除がすごい!」と日本人のみならず、外国人からも驚きの声があかっていることは読者の方もご存じでしょう。
 
 その驚くべきサービスを手掛けているのが、JR東日本テクハートTESSEIという会社です。前身は1952年設立の鉄道整備株式会社。株式会社JR東日本鉄道の関連会社で、わかりやすくいえば「新幹線のお掃除チーム」を束ねている会社です。
 
 新幹線が終着駅に到着し、次の出発(折り返し)までという限られた間に作業しなければならないため、彼らは新幹線が最終駅に到着する前に到着プラットホームで待ち、到着後のドアが開いて乗客が降りるやいなや、さっそうと掃除を開始するのです。
 
 まずは、同社のCS行動規範(同社資料、HP参照)からご紹介することにしよう。
 
 私たちは、清掃の行き届いた清潔でさわやかな駅・車内空間づくりをめざすとともに、新幹線をご利用になるお客さまの旅立ちを楽しく、快適に演出します。私たちは、こうしたチャレンジを常に継続し、新幹線における新しいトータルサービスのモデルを創りあげていきます。
 
  1. 私たちは、清掃のプロとして、より清潔でさわやかな駅・車内空間を創りあげていきます。
  2. 私たちは、安全行動に徹するとともに、さわやかな身だしなみときびきびとした行動で安心と信頼をさらに深めます。
  3. 私たちは、お困りのお客さまに積極的に語りかけ、安心をサポートしていきます。
  4. 私たちは、あたたかな応対でお客さまをお迎えし、その出会いを「思い出」としていただくようチャレンジします。
  5. 私たちはJR東日本グループの人々と連携し、「さわやか」で「あんしん、あったかな」空間づくりをめざします。
 
 ここに記されている文言は、外部向けに作った美辞麗句の類いではないのです。実際の現場は、この文言以上の姿勢を貫いています。新幹線に乗車する人々は、たとえば、家族旅行、修学旅行、ビジネストリップ、はたまた沈痛な面持ちで目的地に向かう人だちなどさまざまです。一人ひとりの目的や思いは異なっていますが、いずれの人たちに対しても、すがすがしく温もり感の伴った空気でお迎えし、お見送りする意識でもって事に当たっているのです。まさに行動規範である「さわやか、あんしん、あったかな」空間の創造がなされており、この心が伴った一連の流れを見た人々、とくに海外から来た人々は、「さすが、おもてなしの国、日本」とその様子に魅了され、ファンになってしまう。諸外国からTESSEIに取材が殺到しているのも頷けるのです。
 

(2) クレームを乗り越えて:「処理型」作業チームからの決別

 「鉄道整備」を略して「鉄整=TESSEI」ですが、スタート時は、東京駅、上野駅における新幹線鉄道車両の折り返しの際の清掃において、ともかく決められた作業をこなす、どちらかといえば無機質な作業をしており、クレームも多かったというのです。
 
 しかし、10年ほど前に、当時のおもてなし創造部長で現在顧問の矢部輝夫氏が、3K・5Kの処理型の「作業」から、創造型の「仕事」へと変革することにチャレンジしたのです。
 
 「作業」から連想されるのは、「片付ける」「処理する」など無機質、機械的、事務的なイメージです。ロボットの...
ような対応といってもいいでしょう。一方の「仕事」は「改良」「創造」「革新」といったニュアンスを含み、人間だからこそできることだと私は考えています。
 
 現在のおもてなし創造部長の岡部正氏によると、矢部氏は、飛び抜けた発想の持ち主であり、自らが身体を張って現場に赴き、行動観察する実務派であったということです。だからこそ、現場の人たちの信望も厚く、改革も成功したのでしょう。
 
 信頼する上司のもとでは、部下はいきいきと働き、時に、現場でしか思いつかないアイデアを提案してくれるのです。伸縮性を持ったほうき、その他「七つ道具」の開発、デザインのよいバッグや制服、さらには季節の花を帽子に飾ることなど、いくつもの案が現場から積極的にあかってきたのです。
 
 次回は、(3)「ノリ語集」と「ノリません語集」から解説を続けます。
 

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