本稿では、社員のモチベーションをいかに維持していくかについて、解説します。施策及び仕組み、モチベーション理論の視点で整理すると、次のようになります。この中から、各社に合った、モチベーションの維持、やる気を高めるキーワード、改善に取り組み、高い目標への自発的な促し方を探していただけたら幸いです。
1. 施策及び仕組みの視点
(1)会社の経営理念や価値観を、経営者、部門、部員レベルまでブレークダウンさせた方針展開表を作成する。
経営理念、会社の目標、部員の目標の整合性を図ることが、全社一丸経営を目指すための重要な方策となります。具体的には、経営理念と関連付けられた重点施策、各々の管理特性、定量化した目標値、納期等をマトリクス表で視える化します。この表を整理するだけでも、何が問題なのかが顕在化できます。図1 にバランススコアカード(BSC)の4つの視点で方針展開した事例を提示しました。
図1. 方針展開表
(2)会社及び社員の両者が、環境変化に柔軟に対応する仕組みを構築する。
環境変化が激しい現代、想定外の出来事で計画を変更せざるを得ないことが発生しているのではないでしょうか。それに対して、想定外の出来事を否定的に捉えず望ましいものであるとし、社員のキャリア形成のチャンスと捉えることです。そのためには、社員の①好奇心、②挑戦心、③学習心等を支援することを仕組みとして考えることです。例えば、厳しいときこそ、組織形態、研修制度等により、新事業や新技術の学習や挑戦の機会をつくる仕掛けを考えることです。
(3)社風を自由闊達に変革し、従業員の知恵をどんどん出させる。
比較的簡単に実施でき、自律思考のクセをつける方法を一つ紹介します。重要テーマの場合は、本質的な目的を問い直す目的展開を組み込んだ「ワイガヤ」を根付かせることです。ブレーンストーミングの中で、「○○は何のためにあるのか」、「我が社は、社会にどんな貢献ができるか」というような目的展開を意識的に行うクセを付けていきます。なお、日常業務の場合は、提案制度等を推奨していけばよいと思います。
2. モチベーション理論の視点
社員の自律性を高めるためには、モチベーションを上げる必要があります。ここで、それらを裏付ける理論について補足しておきます。一般的に、モチベーションは、職場環境の良さ、休みの多さ、処遇の高さなどだけでは、時的にしか改善できません。いままでの人財戦略、研修実施結果、人財及び技術コンサルティング経験等から、モチベーションを上げるには、次の4つが効果的と考えれます(図2)。この中から、一つでも二つでも各社に合ったものがあれば採用していただければ幸いです。
図2. 動機づけ要因と裏付け理論
(1)テーマの面白さやチャレンジ
この裏付けとして、ブルームの期待値理論があります。ブルームはモチベーションを引き起こす誘因として、テーマの魅力度、テーマ達成の可能性を挙げています。
(2)テーマを実行する目的・意義および組織的貢献感
この裏付けとして、ブルームの期待値理論、アトキンソンの期待×価値モデル、フランクルの意味への意思があります。アトキンソンの期待・価値モデルは、難しい課題ならば、達成されたときには、大きな喜びとなる。目標が容易に達成されるものは、成功への主観的確率は高いが、目標の魅力度は低くなる。つまり、「出来るかもしれないし、出来ないかもしれない」ときに、課題への動機付けが最も高まるとしています。フランクルの意味への意思は、人間とは意味を求める存在である。意味を見出す方法は3つあり、何かを創造したり、何かを体験したり、自らの運命に対して取る心構えと態度であるとしています。
(3)チーム等のコミュニケーション
この裏付けとして、エドワード・デシの関係性への欲求、マズローの所属欲求があります。エドワード・デシの心理的欲求の意味は、人が生得的に持っている心理的欲求として...