『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その5)

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人的資源マネジメント
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その5)です。
 

6. デシジョンポイント

 
 全体をつかむと、仕事に関係する人たちにも自分たちの仕事の説明がしやすくなります。また、全体像からどの辺が難しいかもよくわかってきます。さらに、このままではとてもできませんね、ということもよくわかるでしょう。最も大事なのは、日本人の不得意な撤退の判断ができることです。撤退の決断は難しいのです。それ行けどんどんは難しくても勢いがいいからみんな得意です。ところが、これはやっても無駄だ、今までの分は損するがこれはやめた方がいい、という判断は非常に下手です。
 
 ビジネスでも、ある時点でこのことができていなかったら、こういう兆候がでてきたらやめることの論議をしましょう、というときがある。我々はこれをデシジョンポイント(決定する時)と名前をつけています。大事なことは、計画段階でそれを決めておくことです。それは何月何日ではなく、たとえば実験をやって結果が思わしくないとき、その時点で撤退をすべきかどうかを話し合う。つまり物事をやる前に決めておくのが重要な点です。
 
 なぜなら、実験結果が出たあとでこれはよくないからやめよう、とその時点で言うと、気合が足りないとか、やり方がおかしかったのではないかなどと、いろんなことを言うのです。こうなると、せっかくはじめたのだからと続ける方向にしかならないのです。土壇場になって、どうしようもなくなってから止めることになります。よく聞く話は、「だったらはじめから言っておいてくれれば、なにもこんな無駄なことしなくてもよかった」というものです。撤退のポイントを計画段階で、こういう兆候のときにその話をしましょうと決めておくことです。
 
 日露戦争では、引き際をどうするかがはっきりわかっていました。短期決戦でないと資金が続かないことは政府内で共通の理解ができていました。全体構想で何が大事になるかは、成功のシナリオを考えるだけでなく、失敗の場合もあることを全体構想するときに考えておくのです。撤退基準を明確にして損害を致命的にしないことも重要なデシジョンです。最後まで頑張って消耗するというのはよくあることです。
 
 全体でゆとりを持つことは、全体構想を練ることより日本ではずっと得意技の気がしま...
人的資源マネジメント
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その5)です。
 

6. デシジョンポイント

 
 全体をつかむと、仕事に関係する人たちにも自分たちの仕事の説明がしやすくなります。また、全体像からどの辺が難しいかもよくわかってきます。さらに、このままではとてもできませんね、ということもよくわかるでしょう。最も大事なのは、日本人の不得意な撤退の判断ができることです。撤退の決断は難しいのです。それ行けどんどんは難しくても勢いがいいからみんな得意です。ところが、これはやっても無駄だ、今までの分は損するがこれはやめた方がいい、という判断は非常に下手です。
 
 ビジネスでも、ある時点でこのことができていなかったら、こういう兆候がでてきたらやめることの論議をしましょう、というときがある。我々はこれをデシジョンポイント(決定する時)と名前をつけています。大事なことは、計画段階でそれを決めておくことです。それは何月何日ではなく、たとえば実験をやって結果が思わしくないとき、その時点で撤退をすべきかどうかを話し合う。つまり物事をやる前に決めておくのが重要な点です。
 
 なぜなら、実験結果が出たあとでこれはよくないからやめよう、とその時点で言うと、気合が足りないとか、やり方がおかしかったのではないかなどと、いろんなことを言うのです。こうなると、せっかくはじめたのだからと続ける方向にしかならないのです。土壇場になって、どうしようもなくなってから止めることになります。よく聞く話は、「だったらはじめから言っておいてくれれば、なにもこんな無駄なことしなくてもよかった」というものです。撤退のポイントを計画段階で、こういう兆候のときにその話をしましょうと決めておくことです。
 
 日露戦争では、引き際をどうするかがはっきりわかっていました。短期決戦でないと資金が続かないことは政府内で共通の理解ができていました。全体構想で何が大事になるかは、成功のシナリオを考えるだけでなく、失敗の場合もあることを全体構想するときに考えておくのです。撤退基準を明確にして損害を致命的にしないことも重要なデシジョンです。最後まで頑張って消耗するというのはよくあることです。
 
 全体でゆとりを持つことは、全体構想を練ることより日本ではずっと得意技の気がします。厳しいながらもゆとりを持つのは、工夫すれば持ちようはあると思います。あまりギリギリに切り詰めると、どうもうまくいかない。切り詰めて厳しい目標でいくのはいいが、代わりに全体の中から出せるような予備枠を持つという、気の利いた知恵が日本にはあると思うのです。
 
  【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
  

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この記事の著者

津曲 公二

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