『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その1)

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人的資源マネジメント 
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その1)です。
 

◆ 先人の知恵、定石と応用

 
 活動をつねに正しい方向へ舵をとり、効果的に目標に到達するための「定石」があります。基本としての「定石」と、その組織に適合させるための「応用」が必須です。そのバランスがマネジメントのカギになります。
 

1. 作業から仕事へ

 
 仕事をするときは仕事の意味がわかっていないと、仕事をやらされている気持ちになってしまいます。自分が仕事を楽しむようになるには、自らが仕事に価値を見出すことができることからはじまります。また、マネジャーがメンバーの一人ひとりに、仕事の価値を理解させることができれば、自律的に行動するようになります。本章:先人の知恵では、どのようにすれば仕事の価値を理解できるか、理解してもらえるかを考えます。
 

(1) 有意味感、全体把握感

 
 自分が仕事をするということは、その仕事には意味があり、自分に得るものがあると感じられることを「有意味感」と言います。自分が前向きに仕事をするために、その仕事に意味を見出すことができることです。この言葉は心理学で使われており、どんな環境にあっても自分の行動に意味を見出す能力、との意味で使われます。『坂の上の雲』の中で、ロジェストウェンスキー提督率いるロシア艦隊の乗組員の仕事はいつも作業になっていました。乗組員が「仕事に燃える」ところが一か所だけあり、それは日本艦隊との決戦のときです。これが今までのあの乗組員かと思うぐらい気合が入っていました。極限状況だったらどんな組織でも燃える状態になる可能性は大いにあると思います。有意味感は心理学の用語で、人生の意味が充たされないことが、メンタルな障害や心の病に関係してくる、という見解が基になっています。そして、逆境に強い人は、有意味感と全体把握感を併せ持っているのです。いずれにしても、普通のときにいかに意義を感じるかが大切です。
 
 東郷とマカロフは例があります。東郷は、艦隊決戦は味方の被害ばかりがわかるからつらいが、敵はそれ以上につらがっている、と常に話をしますた。マカロフも旅順を守っている司令長官としては2代目で、彼が来たとたんに全軍の士気が上がりました。マカロフは一兵卒にまで、なぜここを守らなければならないかをよく徹底していました。マカロフは途中で戦死するが、その後も活躍していたとすれば日本軍にとって手ごわい相手になったことでしょう。
 
 『坂の上の雲』の中から出てくる教訓としては、2つの感、すなわち有意味感、全体把握感を自分自身でつくるということが非常に重要です。この2つは、自分自身でつくらなければなりません。どんな作業をやらされていても自分ではこういう意味があると見出さなければいけません。グリム童話の灰かぶり姫(シンデレラ姫)に継母が来て、かまどの灰の中に豆をバッとぶちまけ、この中からいい豆と悪い豆を選り分けろという。童話では姫が窓に行って呼ぶと鳩たちが来て選り分けてくれたのですが、それには有意味感がなくて単に嫌がらせをしているだけで、いやがらせなのだから意味のない作業で、いかにつらいのかがわかる。
 
 意味のない作業がいかにつらいことか。自分自身で有意味感、全体把握感を考えるのはどんな場面でも重要なのです。特にリーダーは有意味感、全体把握感のわからないメンバーに対して、マカロフのように教えないといけないでしょう。艦隊を旅順港で守っているのは非常につらく、将校だって理屈ではわかっていてもなかなか納得できない。それをトップやリーダーが繰り返し、繰り返し説明すると違ってくるのです。ところがロジェストウェンスキーはそういうことをまったくしませんでした。
 

(2) 達成可能感

 
 有意味感、全体把握感の2つにつづく3つ目は達成可能感です。3つのうちで1番難しいでしょう。こんなことはできないなと思うと、みんながやる気をなくすのです。よく目標は、本人の実力よりすこし上にと言いますが、手を伸ばしても届かないようだと大体やる気をなくしてしまうのです。やる気がなくならない人は特別な人です。やる気をなくさせないのは、組織で言うとマネジャーの役割です。マネジャーは、メンバー自身だけでは達成可能感はつくれないと考え、目標は難しそうだが手の届く範囲だとメンバーに説明するのがよいでしょう。自分のやっている仕事の意味が感じられなくて、全体の中のどのへんの一部なのかわからない。しかも次から次に仕事が来るという達成可能感がない状況に追い込まれると、メンタルストレスに弱い人は落ち込むだけでなく、最悪の状態に自分を追い込んでしまうと言われています。達成可能感は少し経験値がないと、自分にできそうかはわからないのです。初心者にはちょっと無理です。したがって、「難しいけれどもここを乗り切ればできる」を全員に知らしめるのは、マネジャーの仕事です。経験があると、大体ここは難しいな、ここは少し手を抜こうとかわかるもので、そうでなければどんな高級なことでも作...
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 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その1)です。
 

◆ 先人の知恵、定石と応用

 
 活動をつねに正しい方向へ舵をとり、効果的に目標に到達するための「定石」があります。基本としての「定石」と、その組織に適合させるための「応用」が必須です。そのバランスがマネジメントのカギになります。
 

1. 作業から仕事へ

 
 仕事をするときは仕事の意味がわかっていないと、仕事をやらされている気持ちになってしまいます。自分が仕事を楽しむようになるには、自らが仕事に価値を見出すことができることからはじまります。また、マネジャーがメンバーの一人ひとりに、仕事の価値を理解させることができれば、自律的に行動するようになります。本章:先人の知恵では、どのようにすれば仕事の価値を理解できるか、理解してもらえるかを考えます。
 

(1) 有意味感、全体把握感

 
 自分が仕事をするということは、その仕事には意味があり、自分に得るものがあると感じられることを「有意味感」と言います。自分が前向きに仕事をするために、その仕事に意味を見出すことができることです。この言葉は心理学で使われており、どんな環境にあっても自分の行動に意味を見出す能力、との意味で使われます。『坂の上の雲』の中で、ロジェストウェンスキー提督率いるロシア艦隊の乗組員の仕事はいつも作業になっていました。乗組員が「仕事に燃える」ところが一か所だけあり、それは日本艦隊との決戦のときです。これが今までのあの乗組員かと思うぐらい気合が入っていました。極限状況だったらどんな組織でも燃える状態になる可能性は大いにあると思います。有意味感は心理学の用語で、人生の意味が充たされないことが、メンタルな障害や心の病に関係してくる、という見解が基になっています。そして、逆境に強い人は、有意味感と全体把握感を併せ持っているのです。いずれにしても、普通のときにいかに意義を感じるかが大切です。
 
 東郷とマカロフは例があります。東郷は、艦隊決戦は味方の被害ばかりがわかるからつらいが、敵はそれ以上につらがっている、と常に話をしますた。マカロフも旅順を守っている司令長官としては2代目で、彼が来たとたんに全軍の士気が上がりました。マカロフは一兵卒にまで、なぜここを守らなければならないかをよく徹底していました。マカロフは途中で戦死するが、その後も活躍していたとすれば日本軍にとって手ごわい相手になったことでしょう。
 
 『坂の上の雲』の中から出てくる教訓としては、2つの感、すなわち有意味感、全体把握感を自分自身でつくるということが非常に重要です。この2つは、自分自身でつくらなければなりません。どんな作業をやらされていても自分ではこういう意味があると見出さなければいけません。グリム童話の灰かぶり姫(シンデレラ姫)に継母が来て、かまどの灰の中に豆をバッとぶちまけ、この中からいい豆と悪い豆を選り分けろという。童話では姫が窓に行って呼ぶと鳩たちが来て選り分けてくれたのですが、それには有意味感がなくて単に嫌がらせをしているだけで、いやがらせなのだから意味のない作業で、いかにつらいのかがわかる。
 
 意味のない作業がいかにつらいことか。自分自身で有意味感、全体把握感を考えるのはどんな場面でも重要なのです。特にリーダーは有意味感、全体把握感のわからないメンバーに対して、マカロフのように教えないといけないでしょう。艦隊を旅順港で守っているのは非常につらく、将校だって理屈ではわかっていてもなかなか納得できない。それをトップやリーダーが繰り返し、繰り返し説明すると違ってくるのです。ところがロジェストウェンスキーはそういうことをまったくしませんでした。
 

(2) 達成可能感

 
 有意味感、全体把握感の2つにつづく3つ目は達成可能感です。3つのうちで1番難しいでしょう。こんなことはできないなと思うと、みんながやる気をなくすのです。よく目標は、本人の実力よりすこし上にと言いますが、手を伸ばしても届かないようだと大体やる気をなくしてしまうのです。やる気がなくならない人は特別な人です。やる気をなくさせないのは、組織で言うとマネジャーの役割です。マネジャーは、メンバー自身だけでは達成可能感はつくれないと考え、目標は難しそうだが手の届く範囲だとメンバーに説明するのがよいでしょう。自分のやっている仕事の意味が感じられなくて、全体の中のどのへんの一部なのかわからない。しかも次から次に仕事が来るという達成可能感がない状況に追い込まれると、メンタルストレスに弱い人は落ち込むだけでなく、最悪の状態に自分を追い込んでしまうと言われています。達成可能感は少し経験値がないと、自分にできそうかはわからないのです。初心者にはちょっと無理です。したがって、「難しいけれどもここを乗り切ればできる」を全員に知らしめるのは、マネジャーの仕事です。経験があると、大体ここは難しいな、ここは少し手を抜こうとかわかるもので、そうでなければどんな高級なことでも作業にすぎないでしょう。
 
 達成可能感は「君ならできる」です。上司は、部下のいまの能力が100だったら110とか120の少しガンバルとできるところに目標を設定するのです。マネジャーが君にはできないかも、と思うとやはりできません。達成可能感とはそういうもので、本人にはどこまで自分にできるかはなかなかわからないか
ら、これを伝えるのはマネジャーの仕事です。プロジェクトでは、プロジェクトマネジャーがわからせる必要があります。有意味感、全体把握感は自分でできるし、この感じがあるだけで本人の自信は相当違うのです。ところが最近は、言われたとおりのことだけしかしない人が非常に目立つようになってきました。有意味感、全体把握感は自分でつくるのが原則だが、達成可能感を部下に持たせるのはマネジャーの重要な役割で、さらにこれら3つ全体を支えるのもマネジャーの役割なのです。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  

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この記事の著者

津曲 公二

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。


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