◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか
22. 新聞店が野菜を販売:株式会社アウンズーヤナギハラ
(1) ようやく見つけた経営の本質
全国の新聞の発行部数と新聞広告費の売上推移を見ると、2006年以降、ほぼ有肩下がりを示しています。なかでも広告費の落ち込みが大きいのです。ところで2015年5月31日までの旧社名・株式会社柳原新聞店(6月1日より、阿吽の呼吸から現在の社名に変更)のある静岡県の新聞部数もまた、2006年を100%とした場合、2012年は93%と減少し、地域の世帯数は2006年以降減少し続けています。
長らく新聞のビジネスモデルを支えてきた広告収入は、リーマンショックの影響もあり、減少の一途をたどっています。さらにモバイル環境の充実、購読者の高齢化などマイナス要素を挙げたらきりがないのです。
そんななか、柳原新聞店の業績は常に右利上がりです。とはいえ、過去には柳原新聞店もまた、とにかく新聞の売上部数が増えればいいと考え、新規契約だけを評価し、顧客継続に目を向けなかったり、いい加減な上司が管理を行なったりと悲惨な状況にあったそうです。
しかし、あるとき柳原一貴氏が顧客満足セミナーを受講し、その趣旨、内容に大きな衝撃を受けたことで、柳原新聞店の方針は大きく転換することになりました。サービスが大切、顧客満足は重要と言いながら、実は口先だけで唱えている経営者が多いため、一見、当たり前のことが当たり前と理解されていないのが実情なのですが、今後の会社経営の鍵を握っているのは一人ひとりの顧客であるということに改めて気づいたのです。
そこからの動きは速かったようです。顧客本位の取り組みに注力し、社員と企業の在り方を再構築するなど、次から次へと手を打ち始めたのです。まず、経営における基本理念はもとより、ミッション、ビジョンを掲げました。
〈ミッション〉
- 私たちは明るく元気な人々が集う楽しいファミリーのような会社づくりと情報サービスの提供による地域の皆様とハートフルなネットワークの創造を目指します。
〈ビジョン〉
- 毎日、新聞を各ご家庭にお届けする地域密着型企業の特質を活かし、各種の情報・サービス・商品を提供できる地域社会への貢献度N0.1企業を目指します。
そして、一番大切なのは現場の改革です。たとえば、次のようなことが発生したなら、どうすべきでしょうか。
- 「車の車内灯が点けっ放しになっているが、夜明け前だ」:電話をかけたり、ドアをノックしてお伝えする。
- 「路上に人が倒れている」:すぐに救急車を手配し、警察へ通報する。その間、車にひかれないように見守る(脳溢血の場合、やたらに動かさない)。
- 「土曜日に届けた新聞が月曜日の朝になっても残っている高齢者宅」:ペルを押したり、ドアをノックしても反応がない場合、大家さんや警察の協力を得て、家の中に入って(一人住...
まいの高齢者の方とは、いざというときに家に入ってもよいという覚書を交わしている)。何人もの命を救ったが、残念ながらすでに亡くなっていた方もいらっしゃった。しかし、そのまま長期間放置したままにならないことから、地域社会は柳原新聞店の活動を高く評価しているのです。
「植木鉢や物が倒れている」:すぐに元に戻しているが、一人では無理な場合は自社のスタップと共に作業する。
柳原新聞店で実施しているさまざまな貢献活動は、I冊の本では表現しきれないほど多岐にわたっています。
次回に続きます。
【出典】武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載