少子高齢社会とものづくり 技術伝承とは(その3)
2019-01-23
前回のその2に続いて解説します。
少子高齢化が進むわが国では、生産活動に従事する生産年齢人口 (15~65歳までの生産活動に従事しうる人口)が10年毎に 700万人減少ずつ続けています.また、2005年で8千万人超だった生産年齢人口も、2060年には半減の4000万人超になるという高齢化白書の報告もあります.少子高齢社会では、現在の半分の従業員での事業運営を求められるのです.従って、今と同じ生産性を維持していくには、コア技術やノウハウ以外の作業を標準化しICTや自動化などにより圧倒的な生産性向上を行なっていく必要があります。
一方、生産年齢人口の構成を見ると、15~34歳の若手と35~65歳の中高年との比率が、10:1という状況になっています.中高年10人がもつ技術や技能を一人の若者に伝える事態になっており、受側のキャパオーバーの状態が続いています.そのため中高年がもつ技術や技能を表出し、標準化したうえでICTなどを活用して自動化・効率化していくものと、次世代に伝えていくコアの技術やノウハウに識別することが必要となります.そのうえで、少子高齢社会のものづくりに対応できるように、より生産性を高めるような改善を行っていくことが求められるのです。
少子高齢社会でものづくりを続けていくためには、付加価値を維持する対策と付加価値を向上する対策の両面からものづくりを考えておく必要があります.図2に示すように、付加価値を維持していくためには、人手不足対策として外国人や高齢者など多様な労働者を活用しつつ、ICTやIoT、AI といった技術を使い、作業を自動化・効率化し、誰でも作業ができるものづくり環境を作り上げていくのです.一方付加価値を向上していくには、大多数を占める中高年から次世代へ伝えるべきコアの技術やノウハウを抽出・絞り込み、それらの技術やノウハウを深耕していくことに注力するのです。
図2. 少子高齢社会でのものづくり
少子高齢社会でのものづくりでは、付加価値維持と付加価値向上とは密接な連携が必要となります.例えば、標準化できる作業は形式知化が容易であり、機械化や自動化への展開も可能であるため、多様な労働者に合わせた作業環境整備(役割分担など)を行なえば、誰でも同じ状態のものを創り出せるようになります.標準化 → ICT 活用 → 作業環境整備 というような技術移転...
の流れを意図的に作り出しておくのです。
一方、残すべきコアの技術やノウハウは、標準化した段階で差別化要素が失われ、技術流出の可能性も高まるため、無理に表出 (形式知化) せずに属人的に伝承しつつ、技術を深耕していくのです.少子高齢社会でのものづくりでは、この技術移転と技術深耕をバランスよく行っていくことが必要となります。
次回に続きます。