前回のその39に続いて、解説します。
1. 改革の先延ばしは顧客離れを誘発する
少し古いデータですが、興味深い事実を提示します。顧客からクレームを受けた企業が、2002年4月から6月までの3か月間に全国紙に出稿した延べ件数です。
- おわび広告=125件
- お知らせ=3件
- 報告=3件
- 謹告=1件
こうした企業は、顧客や消費者からの信頼を失うばかりではなく、失った信用回復のために多大なコストを注ぎ込まなくてはならなくなります。社内にあっては人心が離れ、社外にあっては信用をなくし、顧客が1人また1人と離れていきます。
1度離れていった顧客を引き戻し、新規顧客を獲得するために、企業はさらに大きな代償を払わなくてはならないのです。
1998年に実施した私どもの顧客・サービス研究所の調査では、次のような事実が分析されました。
「日本における新規の顧客開拓にかかるコストは、リピート購入促進のために費やすコストの約8倍かかる」
つまり、1人の新規顧客を開拓するコストで、8人のリピート購入を促すことが可能になるのです。新規顧客の開拓がいかに大変で、自社の顧客をつなぎ止める不断の努力がいかに大切であるかが、この事実から理解できます。重大なクレームの発生は既存顧客を失うと同時に、新規顧客開拓のチャンスをも失ってしまうのです。これは、極めて深刻な経営危機を招きかねないのです。
では、そうした最悪の事態を未然に防ぎ、既存顧客の高い満足を創造するためには、どうしたらよいのでしょうか。
私は、はっきり言い切ることができます。
顧客と真正面から向き合い、顧客と同じ目線で商品やサービスを見つめるお客さま相談室を作り上げることが、顧客満足を向上させて経営危機を回避する最も有効な経営判断です。
さらには、もし企業が、建前ではなく本気で自社の顧客との継続した良好なコミュニケーションを願うのなら、お客さま相談室の改革を、いますぐ断行すべきです。改革には、経営の強い意志とスピードが求められます。改革の...
先延ばし、遅れは顧客離れを誘発し、企業の財産は日を追うごとに失われていきます。
まさに企業存亡の鍵を握るお客さま相談室の抜本改革は、どのように実践すればよいのか。次回のクレーム対応とは(その41) 顧客の代弁者になろうから、顧客との良好な関係を保つお客さま相談室の条件を、具体的に示していきます。次回に続きます。
【出典】武田哲男 著 クレーム対応、ここがポイント ダイヤモンド社発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載