顧客の代弁者になろう クレーム対応とは(その45)

 
  
 
 前回のその44に続いて、解説します。
 

1. 改革の先延ばしは顧客離れを誘発する

  【クレーム対応心得】

 
 最近は、「とにかくコスト削減が最優先」と呪文のように唱える経営者が多いのですが、同じコスト削減でも「ロスコストを削減したい」と真剣に考えている経営者に出会うことは、稀です。そればかりか、ロスコストの内容を正確に把握している経営者にさえ、ほとんどお会いする機会はありません。
 
 では、ロスコストとは何なのでしょうか。
 
 たとえば、ある商品でクレームが発生したとしましょう。この場合、直ちにその商品を回収して新品と交換する費用、クレーム商品を無料で修理する費用、さらに商品の設計変更や仕様変更など直接的に発生する費用(直接ロスコスト)と、営業担当者が営業活動を放り出してお詫びに訪問したり、サービス担当者が修理に出かけて本来のサービス活動が中断される間接ロスコスト、さらにはクレーム顧客の訪問にかかるコスト(たとえば訪問時の交通費や手土産など)も、すべて本来ならば発生しなくてもよいコスト(ロスコスト)になります。
 
 また、クレーム内容をよく調査すると、やや複雑な問題で、「お客さま相談室が単独で解決することが難しい」と判明したとしましょう。すると、相談室のスタッフはすぐに行動を起こして、関連する技術部門と連携してクレーム原因を特定し、品質管理部門とも連絡を取りながら具体的な対応を進めていくに違いありません。
 
 その結果、最終的に商品交換という対応を選択せざるを得ないことがわかり、製品サポート部門の担当者に応援を頼んで、なんとか「一件落着にこぎ着ける」ことになります。
 
 こうした場合、クレーム解決の目に見えるロスコストは交換した製品一つ分と思うかもしれませんが、問題解決に関わることになった技術部門、品質管理部門、製品サポート部門、それに法律対応の相談でたびたびアドバイスを得た法務部門のスタッフが費やした時間と労力、人件費は、すべてロスコスト計算できることになります。
 
 一般的に、クレームや問題対応に費やされるロスコストは、中堅企業クラスで年間1億円、大企業クラスになれば年間10億円を超える場合もざらです。
 
 ここで、よく認識しておかなければならないことは、ロスコストが直接支払われる支出であり、「純損失」であることです。これは純利益と同様に考えられます。
 
 業種や産業によって違いはありますが、一般的な企業の純利益水準は、売上げ比の1~2%くらいでしょう。1億円の純利益を得るために、企業は100億~200億円の売上高を達成しなければならないのです。
 
 そこで、もし年間1億円のロスコストがある企業であれば、100億円の売上げを失うことと同じ意味になります。500万円の高額商品(高級車や機械)を販売している企業であれば、年間2000台の販売分を失って...
いることになります。
 
 このように論理的に考察していけば、ロスコストが企業にいかに膨大な損失を与えているかがわかるはずです。1回のクレームを1度でしっかり解決すればロスコストを最小限に抑えられますが、いい加減なその場しのぎの対応でクレームを再生産してしまうようでは、ロスコストも数倍、数十倍に跳ね上がります。
 
 お客さま相談室で削減しなくてはならないコストは、無意味なリストラによる人件費などではなく、企業収益を直撃するロスコストであることを強く認識していただきたい。
 
 次回に続きます。
 
【出典】武田哲男 著 クレーム対応、ここがポイント  ダイヤモンド社発行
            筆者のご承諾により、抜粋を連載

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