今回は、清掃手順にも関連する“短繊維と長繊維”についてお話します。 清掃手順の中では、寝室から先に清掃をします。なぜなら寝室は布団等寝具からゴミが出る、つまり発生源が沢山あるからです。これらは綿で出来ているものが多いですから、その綿ゴミが出て来ると言うことです。 この綿は繊維の長さが短い、つまり短繊維ですから、相互の絡みが少なく、脱落しゴミになります。
日本は、湿気の多い国ですから、その湿気を吸収してもらいたいために、古くから綿の下着が好まれて来ました。しかし、これも綿製品ですから、同じくゴミになります。クリーンな環境での作業が必要な場合、防塵衣(クリーンスーツ)を着用されているところも多いでしょう。防塵衣を着用する理由は、人体そのものや下着等から発生するゴミを、クリーンルームへ撒き散らさないためです。従って、きちんと着用しなければいけません。 極端に高いクリーン環境を求められるところでは、下着も長繊維のものに着替えてから防塵衣を着用し、クリーンルームに入ります。
この防塵衣からゴミが出てはいけないので、ゴミの出にくい、ポリエステルの長繊維が使われています。 この他クリーン資材の中でも、製品や治具を拭いたり、作業台をクリーニングする場合は、ポリエステル等を中心にした長繊維のものを使います。あるいは、床掃除用の布性のモップなども同様に長繊維のものを選定するのが一般的です。綺麗にしようと思って、使いながらゴミを出していたのでは、製品品質を落としたり、清掃しながらクリーンルームを汚したりと言うことになります。使っているものが、ゴミ、汚れを除去するのか、発生源なのかでは大きな違いですね。
私は、クリーンルームの中で気流を簡易的に確認する場合、糸を使います。糸を使って気流を観察する方法をTaft法と言いますが、この場合絹糸を使うのが一般的です。普通の糸を使ってしまうと、綿の糸ですから、前述した短繊維のゴミが出てしまいます。使っているうちに、繊維が少しずつ脱落すると言うことで、糸は段々細くなります。これを糸が細るとか痩せるなどと言う人もいます。一方、絹糸は蚕が吐いた糸ですから長繊維です。ある製糸会社の方の話では、一匹の蚕が吐く糸の長さは、500m~1000mにもなるそうです。ただ、蚕にも人と同じように、色々な性格があるようです。一気に吐いてしまうもの、休み休み吐くもの、吐くスピードが変化するなどで、太かったり、細かったり、段々太くなって行ったり、その逆であったりと太さは均一ではなく、人工の糸のようには行かないようです。この糸をおよそ35本程度に縒ったもので気流を見ています。
余談ですが、中国、蘇州の工場でこの絹糸を使って気流を確認した時、周囲の管理職やオペレータが集まって来て、この素材は何かと言うので、絹糸だと説明したことがありました。ところが、なかなか理解してもらえません。絹糸と言う言葉が通じないのです。通訳さんも首をかしげていました。予め調べた情報では、蘇州は絹製品の加工技術が素晴らしく、世界無形遺産に登録されています。 また、市内を歩いても、絹糸を扱う問屋や、絹製品を扱ったお店が多いので、絹糸と言えば容易に通じると思っていました。 ところが、実際にはいきなり絹糸と言ってもなかなか通じませんでした...
ちょっと逸れましたが、製品や治具、作業台を拭いたり、床掃除をする時、ただ拭けばよいのではなく、素材が短繊維か長繊維か等の知識を持ちながら拭き取ることで、作業の価値が変わってきます。 「何だ たかが掃除か!」では終わりません。良く観察したり、絞り込んで考えると、一つ一つに意味があることがわかり、それを意識することで、その作業の価値を高められます。 こんな小さなことにも、オペレータが意識して取り組んでくれるところは、現場の体質が強いのです。