◆ データ分析は「最初は誰も信じてくれない」小さくはじめ大きく波及させよ
就職して私が配属された部署は、幸いにもデータ分析・活用の歴史の長い組織でした。長年やっているということは、組織も人も一つの大きな武器になります。歴史があるというだけで、その部署の存在や業務に対し、誰も疑念を抱かないからです。30歳に近づいたころ、ある民間のコンサルティング会社に転職しました。データ分析を武器に、ビジネスの世界へ切り込んだつもりでしたが、そこに大きな壁が立ちはだかりました。
今回は、『データ分析は「最初は誰も信じてくれない」小さくはじめ大きく波及させよ』というお話しをします。
1. データ分析:無関心の壁
最初に立ちはだかった壁は「無関心の壁」でした。いくら説明しても、データ分析というものを理解してもらえないのです。興味がないという以前に、関心が全くないからです。データ分析はモノと異なり、目に見えません。目に見えないものを理解してもらうのは至難の業です。
さらに、学生時代の数学アレルギーを発動する人も少なくありませんでした。説明すればするほど、嫌悪するのです。その壁を突破しても、まだまだ道のりは長く、どこまで行ってもデータ分析のパワーを信じてもらえないのです。そこで「データ分析は、最初は誰も信じてくれない」と思うことにしました。
2. データ分析:データをビッグ(利活用による価値化)にする人の知恵
今でこそ、ビッグデータだ、データサイエンティストだのと、データ分析っぽい話題が注目されることもありますが、当時は本当に絶望的でした。一時期、データマイニング・ブームというものがありましたが、気が付いてみれば「データマイニングはビジネスに貢献しない」という風評被害だけが残った感じです。この間、米国のドットコム企業がデータを上手く活用し急成長を遂げました。気が付けば、ビッグデータ・ブームというお祭りが始まります。
ビッグデータというワードの字面(じずら)から「データがたくさんあること」がすごいと勘違いされることが多いわけです。ビッグデータが注目されたのは、「データをビッグ(利活用による価値化)にする人の知恵」が湧き出たことです。その知恵を上手く活用し、大きく成長する企業も出てきたからです。
3. データ分析:ビッグデータとIT投資
ビッグデータ・ブームとともに、IT投資が飛躍的に増えた企業も少なくないのではないでしょうか。その結果何が起こったでしょう?上手くいった企業もあれば、そうでない企業もあると思います。上手くいったのか、上手くいかなかったのか、あやふやな感じだけが残った企業もあることでしょう。次の事例のように私には「多くの企業ではあまり嬉しいことは起こらず、逆に何となく面倒になってしまった」…という感じがします。
(1) BI(ビジネスインテリジェンス)ツール
あまりにもBIツールの操作が面倒で結局、Excelにデータを出力し整理する。それでも担当者はコツコツとBIの運用やデータ整備、ダッシュボード構築に追われている。
(2) CRM(顧客関係管理システム)やMA(マーケティング・オートメーション・ツール)
何かいいこと起こるかもしれないと、CRMやMAを導入したものの、データ入力が面倒でいい加減になってしまう。イベント開催など日々のマーケティング業務ではExcelを活用し、適時CRMやMAにデータを転記する。転記漏れで、正しい情報はExcelに残っている場合も少なくない。それでも、CRMやMA担当者は運用やデータ整備などのシステムのお守りに追われる。
(3) データ分析ツール
ベンダーのセミナーで、これはスゴイと感動し導入した有料のデータ分析ツールをとりあえず購入したが、在庫管理も需要予測もExcelで実施したほうが楽だと、現場の担当者は感じ、せっかく購入した分析ツールは社内の一部のデータ分析マニアのおもちゃとなり、無駄にライセンス料金を垂れ流すだけとなった。
4. データ分析:IT化の不効率を加速させたビッグデータ・ブーム
私は、IT化によって得られる便益に比べ、工数やコストが増大することを、IT化の不効率と呼んでいます。何となく「ビッグデータ・ブームはIT化の不効率を加速させた」という苦い感覚しかしません。そのような中「本当に、データを上手く使いこなしている企業はあるのだろうか?」と疑いたくもなる人も、少なくないでしょう。実際、データを上手く使いこなしている企業はあります。ビッグデータ・ブーム以前からもブーム以後も存在しています。データを上手く使いこなしている企業とそうでない企業、その違いはどこにあるのでしょうか。
5. データ分析:小さくはじめ大きく波及させよ!
どのような企業が、どのような方法でデータを上手く使いこなせるようになったのでしょうか。色々な失敗要因があるように、成功要因にも色々あることでしょう。私の考えを押し付ける気はありませんが、データ分析のビジネス活用を「小さくはじめる」と比較的上手くいくと、私は考えています。少なくとも、失敗した例を私は知りません。もちろん、小さくはじめなくとも上手くいくケースもあります。データ分析のビジネス活用を「小さくはじめる」とは、どういうことでしょうか。それは、今あるデータとツールで、どんなに小さな成功体験でも良いので経験するということです。
その成功体験が「最初は誰も信じてくれないデータ分析」を信じるきっかけになります。次の事例のように、大掛かりにやる必要も、大々的にやる必要もありませんし、大規模な投資をする必要も、ものスゴイ人財が必要なわけでもありません。
(1) ある自動車メーカー
ホームページの「アクセスログの集計レポート」を試乗申し込み者ごとに作成し、販社の営業担当向けに提供するようにしました。試乗予約した人が、どのページを多く見ているのかを集計しただけで、好みの車や何に関心があるのかが、何となく見えてくることもあります。各営業担当は、そのレポートを参考に接客するようになり、データ分析への信頼が出てきたところで、次のステージに進みました。営業担当の動きを大きく変えることなく、新たなデータを取得することもなく、今まで蓄積してきたホームページのアクセスログを集計し、営業担当が使いやすいようにレポートを作っただけです。最初は、これぐらいで十分です。
(2) ある部品メーカー
定期訪問前、次に紹介する商品の候補を知るため、取引履歴データから「顧客別の推奨商品ランキング」を作るところから始めました。新たにデータを取得することなく、毎週データ分析担当者が1時間ほどで「顧客別の推奨商品ランキング」を作り、営業担当と共有しました...
この後、定期訪問の連絡をメールでする際「さりげなくメールの中に『顧客別の推奨商品ランキング』の上位の商品を紹介し反応を見る」ということをしました。どの程度興味があるのかを知るためです。こちらは、新たにデータを取得した、メール内にある商品ページのリンクがクリックしたかどうかのデータです。これが上手く回るようになってから、次のステージに進みました。これぐらいで十分です。
6. データ分析:小さな成功体験を積むと上手くいく
今回は、「小さくはじめ大きく波及させよ!最初は誰も信じてくれない」というお話しをしました。
今回の内容を一言で言うと「小さな成功体験を積むと上手くいく」ということです。そして、一番最初の成功体験のカタチは、つまりデータ分析の信頼を得る方法は企業によってそれぞれです。最初は、それこそ小さな成果しか出ないことでしょう。
小さな成果しかでなくても執念をもってコツコツ続けていくことを、強くお勧めします。必ずビジネス成果が付いてきます。そして、データ活用の勘所を掴み「データをビッグ(利活用による価値化)にする知恵」が湧き出ることを体感すると思います。そこまでいけば、もう十分です。大きく波及させ大きな成果を手にするときです。もし、あなたやあなたの組織で実施しているデータ分析が、ビジネス貢献していないなと感じたら、この「小さくはじめ大きく波及させる」というアプローチを参考にして頂ければと思います。