経営にも品質がある

1. 経営の品質とは

 経営の品質って何でしょう。良い経営と悪い経営があるのは何となく分かりますよね。利益をたくさん出すのが良い経営でしょうか?たとえ儲かっていても、倫理的問題で周りから非難を浴びている企業が、良い経営をしているとはいえません。

 そもそも「品質」とは何でしょう?品質管理用語を扱うJISのZ8101では「品物またはサービスが、使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体」と定義されています。ここでは「経営」は対象外です。しかし日本品質管理学会の定義は「製品・サービス・プロセス・システム・経営・組織風土など、関心の対象となるものが明示されたまたは暗黙のニーズを満たす程度」であり、経営にも品質があると明示されています。でも経営に関する「明示または暗黙のニーズ」って何なんでしょうか。利益?顧客満足?従業員満足?生産性?たくさんの要素がありそうです。

 それら経営品質の要素を体系化したものの一つが「日本経営品質賞」です。これは米国の「マルコムボルドリッジ賞」という経営品質の国家賞を参考に、財団法人社会経済生産性本部が1995年に創設したもので、図1のような理念を基盤としています。

図1.日本経営品質賞の基本理念

2. 経営品質の評価指標

 日本経営品質賞では、前述した経営品質の多面性を図2のようなフレームワークで定量評価します。すなわち仕組み系の6カテゴリーと結果系の1カテゴリーで、それぞれ重要度に応じて40点から400点が配点され、合計1000点満点になります。

図2.日本経営品質賞のフレームワーク


 この配点に対して理想への充足度を審査員がパーセンテージで評価し、カテゴリーごとの優劣と合計点で経営の充実度を見るわけです。配点自体には色々な意見があるでしょうが、経営品質がこれら8カテゴリーの要素で構成されるという点は納得できると思います。

 必ずしも外部からの審査員が良いわけではなく、社員グループで審査することが推奨されており、客観的に自社を見ることができるメリットがあります。また例えば採点が530点だったとして、その点数自体に一喜一憂するのではなく、どのカテゴリーが相対的に強み、弱みであり、効果的に理想に近づくために集中して強化すべき項目を検討するデータとするのが、本来の活用方法です。

3. 日本経営品質賞の歴代受賞企業

 当然ながら大企業はあらゆるリソースが豊富で、経営の仕組みも整っている場合が多く、中小企業が同じ基準で受賞するのは難しいと考えられます。そこで選定に際しては、大規模部門と中小規模部門とを分離しています。

 過去の大規模部門では、NEC半導体事業部、アサヒビール、リコー、日本IBM、セイコーエプソン、カルソニックハリソン、富士ゼロックスなど日本を代表する製造企業が受賞しており、2002年には私が在席していたパイオニアのモバイル部門も受賞しました。私は部門が違っていたため、受審活動に直接は関与していなかったものの、全社活動ではセルアセッサーとして活動して、確かな手応えを感じていました。

 一方、中小規模部門の受賞企業は、ゴルフ場、飲食業、販社などのサービス系が多く、ものづくり系では吉田カバン(現:イビザ)など4社に留まっています。図1の基本理念が示すように、お客様第一の経営が重視されるため、必然的に接客業務が主体のサービス業が、受審に向けて全社で活動する例が多いようです。

 そんな中では、徳島県でナットなどのファインパーツを冷間鍛造で製造する西精工が2013年に受賞しており、製造業...

界で際立つ存在になっています。私は同社の経営品質報告書を見たことがないものの、ホームページを見てみると、若い社長を中心に顧客満足、社員満足、そして社会貢献と、日本経営品質賞の7カテゴリー全般に力強く取り組む姿勢がみえます。

 実はこの賞の元になったマルコムボルドリッジ賞は、1980年代に日本製造業に惨敗した米国が、その原因を徹底的に調査した結果から、日本の経営様式を参考にして図2のようなフレームワークとガイドラインを設計したものなのです。さらに時代を遡(さかのぼ)ると、日本が全組織的な経営を始めた起源の一端は、1950年代に来日して全国を回って丁寧に品質経営の重要性を説いたデミング博士にあります。米国人が日本に指導し、その成果を米国が参考として作った仕組みを日本が倣(なら)うという、非常に興味深い流れがここにあります。

◆関連解説『品質マネジメントとは』

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