ものづくりにイノベーションは必要か?

1. イノベーションってなんだ?

 私の会社「産業革新研究所」は英文表記がIndustrial Innovation Institute Inc.であり、Inが4つ並んでいい感じなのですが、イノベーションを含んでいるため、必然的に意識が高まります。イノベーションは「新しくする」を意味するラテン語のInnovareを語源とし、経済学者であるシュンペーターが約100年前に使い始めました。これは何もないところから突然現れるのではなく、既存事項どうしを新たに組み合わせることで生まれ、またこれこそが経済発展の原動力と考えました。

 例えば近年自動運転技術が急速に進歩しています。それを構成する要素技術はミリ波レーダー、高解像度カメラと画像処理、高速CPUなど既存技術の組み合わせであり、全く新たな技術はありませんが、十分にイノベーティブといって良いでしょう。

 旧来イノベーションの日本語訳とされる「技術革新」は、新たな技術が必要と誤解されやすいことから、その表現を見直す機運が高まっています。

2. イノベーションしなくても何とかなる?

 今から60年前にドラッカーは「マーケティングとイノベーションだけが企業の基本的機能」であり、「イノベーションによってより経済的な財やサービスを作ることができる」と主張しました。現状を変えることは億劫(おっくう)であり、今のままで明日、来月、来年突然立ち行かなくなることもないでしょう。そのままずっと何とかなれば楽チンなのですが、競争の現代で現状にとどまることは、進歩してゆく社会の中で相対的に後退していくこととなり、イノベーションしないことが最大のリスクとなるでしょう。

3. イノベーションは難しいのか?

 地道な改善活動が簡単とはいいません。非常に重要ですが、イノベーション=革新活動にはさらに難しい問題があります。製品やプロセスを革新するには人、資金や時間などの資源投入が必要であり、革新的であるほど成功の可能性が低く、場合によっては実現しても成果が不確かである点です。

 革新的な商品、サービスは従来と大きく異なっているために、経営者や顧客、市場が簡単に受け入れるとは限りません。顧客からの要求を愚直に実現しようとするほど、破壊的なイノベーションを実現できないとクレイトン・クリステンセンは多くの事例を挙げながら説明しています。有名な「イノベーションのジレンマ」です。

 特に大企業では担当部門長が大きなリスクを取ってイノベーションに成功したとしてもその見返りは限定的であり、一方革新的であるほど事業化は高い確率で失敗すると想定され、その時はキャリアを大きく傷つけてしまいますから、それくらいなら、小さいながらも確実に成果が出る業務を担当したいでしょう。

 また、たとえ担当部門長が革新的事業を進めようとしても、優秀な経営者ほど信憑(しんぴょう)性のある調査データを要求し、不確実なテーマは排除されるため、成功のイメージが持ちやすい過去に成功した類似製品を手掛けてしまいます。

 その点でいえば中小企業の方が、資金や人材の目途が付くならば、経営者のトップダウンで革新的なプロジェクトを迅速に進めやすいかもしれません。

4. こんなことに気を付けてみよう

 ドラッカーは、次のような機会でイノベーションが起こると考えました。

  1. 想定外の出来事
  2. 現実と理想の不一致
  3. 改善のニーズ
  4. 産業や市場の構造変化
  5. 人口構造の変化
  6. ものの見方、感じ方、考え方の変化
  7. 新しい知識の出現

 このような場に遭遇した時に、それを機会として認識できるように感度を高めておくことが重要です

 またクリステンセンは、イノベーションを実現させるには「顧客に頼らない」ことと、「コストをかけずに素早く柔軟に進出して試行錯誤する」ことを提案しています。

 先に書いたように革新的であるほど顧客は理解できません。提案側が信念を持って開発するしかないのですが、その不明確なアイデアに大きな資源を一気に投入することは危険です。簡易なサンプル(MVP:Minimum Viable P...

roduct)を作って顧客の反応を確かめ、小規模な販売で売れ行きを確認し、事業化の確信を得たところで本格的な投資に移るべきでしょう。

 米国の3MやGoogleのように、自分の好きなテーマに業務時間のある割合を使うと明文化したり、定期的にイノベーションを議論する委員会やワークショップを開催するなど、持続的で定型的な仕組みが効果的です。事業化にあたっては、既存の事業の一部ではなく小さく柔軟な独立組織の方が迅速に立ち上げられるでしょう。

 それでも大企業内で事業化まで育てるのは容易ではありません。大きなイノベーションは、ベンチャーや中小企業に開発を任せて、事業化が見えてきた段階で大企業と提携するプロセスも注目されています。

 いかがでしょう、参考になりましたでしょうか?ものづくりドットコムの登録専門家では、中村大介さんがこの分野がお得意です。不明の点やご相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してみてください。

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