技術企業の高収益化: 日本企業で挑戦的なテーマが進まないワケ

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◆ 高収益経営者がならなければならない心理

 「不退転の決意」…、A社の社長がこの言葉を発したのは、社内での会議中のことでした。今でも鮮明に覚えているのは、社長のその語気と表情です。社長は普段は温厚な人なのですが、やると決めたことには非常に強いこだわりをみせる人です。社長の表情や言葉に、非常に強い意志を感じました。

 この会議には私だけではなく、A社の幹部社員も同席していました。検討課題は「中・長期のテーマに集中できるようにするためには?」というものでした。社長の発言の後、会議参加者は活発に議論を重ね、自分たちの力で結論を見出すことに成功しました。それまでは発言が少なかった人も社長の発言に背中を押されたのか、積極的に意見を交わすようになり、結果的にこれまでで最も挑戦的な案を採用することになりました。

1、兼任か、それとも専任か

 この会議に至る経緯を説明しますと、A社には30人規模の開発部があり、従来は顧客の要望に対応することが開発の中心でした。要するに、既存商品のカスタマイズや小規模な変更、特注対応などです。反対に、自社主導のテーマや「業界初」など挑戦的なテーマは、例年「今期は棚上げ」とし、実施しないことがほとんどでした。

 A社には、次世代の商品や事業を担う組織がこの開発部以外にはありません。そのため、中・長期のテーマに取り組むことはおろか、発想することもありませんでした。

 このようなことが過去数十年続いていたため「このままではいけない」と中・長期テーマに取り組めるような組織にすべく、幹部社員で行動することにしたのです。そして、社長判断でこの取り組みは次世代の幹部育成のため「部長以下の幹部社員に委ねる」という方式で実施することになりました。手始めに部長8人で議論し、社長はその会議に「オブザーバー」として参加する方式で始まりました。

 部長級の8人で検討していたところ、以下の2通りの案が出てきました。

  • [1]現状の開発部の中に兼任者を設ける(兼任案)
  • [2]組織を新設する(専任案)

 コンサルタント目線で見れば、このような場合(中・長期のテーマに経営資源を投入できる組織をつくる場合)には、[2]の専任組織の新設しかありません。2択ではなく、事実上の「1択」です。

 しかし、前述の通り、A社は次世代幹部育成のために今回の取り組みを「部長以下に委ねる」という方針を立てたので、私が議論を促すことは適切ではないと思いました。各部長が思い思いに発言していたのですが、[2]の組織(部)を新設するという話にはなりませんでした。きっと皆さん、部の新設は大掛かりだと思ったからでしょう。

 確かに、開発部長は1人いました。この開発部長が中・長期のテーマへの取り組みに対する責任者を兼任するというのであれば、部下の担当者の職種を変えれば済む話、と捉えることもできます。ですから、開発部の担当者の職種が変わる穴を、別の部署からの異動でどう埋めるかという話に終始していました。結果、組織を変えずに「担当者兼任案」を実施することにしました。

2、担当者に兼任させた結果…

 半年後、何が起こったかといえば、兼任とされた担当者が、ほとんど中・長期のテーマの仕事をできず(せず)に時間だけが過ぎてしまいました。

 担当者に聞くと「開発の仕事が多忙で、とても中・長期のテーマに人も時間も割いている余裕がなかった」とのこと。開発部長も「緊急度が高い開発の仕事を優先してやってもらった」と言い分けします。こうしてA社では、半年も中・長期のテーマに手を出すのが遅れてしまいました。私からすると、案の定の結果になったというところです。

 半年間成果がなかったことにしびれを切らした社長は、1度解散した8人の部長会を再開し、冒頭の発言をするに至りました。社長の言葉をより正確に伝えると、以下のようなものでした。「絶対に、自分は中・長期のテーマに資源を投入するのだ。これは、不退転の決意であり、『できない』はない。それでも執行は諸君に委ねている。だから、従来通りの発想にとどまることなく提案してほしい」。

 語気を強めて真剣なまなざしで発した「不退転の決意」という社長の言葉。この言葉が部長会合をよみがえらせました。その会議で社長は、半年間の猶予の割に結果が出ていないことへの責任を追及することもできたでしょう。しかし、そうはせずに全面的に支援する姿勢を示しました。その上で「不退転の決意」という力強い言葉を加えたのです。すると、大きな変化が起きました。

 それまでは現状維持路線でリスクを取ろうとしなかった部長が、これまでの反省も踏まえて積極的にリスクを取る発言をするようになったのです。具体的には「専任案」を採用し「新設部署に誰が行くべきか?」や「どのようなミッションを持たせるか?」について真剣に検討し始めたのです。「開発部長に兼任者をぶら下げておけば何とかなるだろう」といった半年前の雰囲気は一変しました。

3、経営者の語気と表情は全てを語る

 繰り返しますが、社長は「不退転」という言葉を使いました。その語気や表情からは社長が本気であることが誰の目にも明らかでした。では、社長の本気にスイッチが入り、会社全体が動いたA社のその後がどうなったかをお伝えしましょう。

 新設組織が出来たのは言うまでもありません...

◆ 高収益経営者がならなければならない心理

 「不退転の決意」…、A社の社長がこの言葉を発したのは、社内での会議中のことでした。今でも鮮明に覚えているのは、社長のその語気と表情です。社長は普段は温厚な人なのですが、やると決めたことには非常に強いこだわりをみせる人です。社長の表情や言葉に、非常に強い意志を感じました。

 この会議には私だけではなく、A社の幹部社員も同席していました。検討課題は「中・長期のテーマに集中できるようにするためには?」というものでした。社長の発言の後、会議参加者は活発に議論を重ね、自分たちの力で結論を見出すことに成功しました。それまでは発言が少なかった人も社長の発言に背中を押されたのか、積極的に意見を交わすようになり、結果的にこれまでで最も挑戦的な案を採用することになりました。

1、兼任か、それとも専任か

 この会議に至る経緯を説明しますと、A社には30人規模の開発部があり、従来は顧客の要望に対応することが開発の中心でした。要するに、既存商品のカスタマイズや小規模な変更、特注対応などです。反対に、自社主導のテーマや「業界初」など挑戦的なテーマは、例年「今期は棚上げ」とし、実施しないことがほとんどでした。

 A社には、次世代の商品や事業を担う組織がこの開発部以外にはありません。そのため、中・長期のテーマに取り組むことはおろか、発想することもありませんでした。

 このようなことが過去数十年続いていたため「このままではいけない」と中・長期テーマに取り組めるような組織にすべく、幹部社員で行動することにしたのです。そして、社長判断でこの取り組みは次世代の幹部育成のため「部長以下の幹部社員に委ねる」という方式で実施することになりました。手始めに部長8人で議論し、社長はその会議に「オブザーバー」として参加する方式で始まりました。

 部長級の8人で検討していたところ、以下の2通りの案が出てきました。

  • [1]現状の開発部の中に兼任者を設ける(兼任案)
  • [2]組織を新設する(専任案)

 コンサルタント目線で見れば、このような場合(中・長期のテーマに経営資源を投入できる組織をつくる場合)には、[2]の専任組織の新設しかありません。2択ではなく、事実上の「1択」です。

 しかし、前述の通り、A社は次世代幹部育成のために今回の取り組みを「部長以下に委ねる」という方針を立てたので、私が議論を促すことは適切ではないと思いました。各部長が思い思いに発言していたのですが、[2]の組織(部)を新設するという話にはなりませんでした。きっと皆さん、部の新設は大掛かりだと思ったからでしょう。

 確かに、開発部長は1人いました。この開発部長が中・長期のテーマへの取り組みに対する責任者を兼任するというのであれば、部下の担当者の職種を変えれば済む話、と捉えることもできます。ですから、開発部の担当者の職種が変わる穴を、別の部署からの異動でどう埋めるかという話に終始していました。結果、組織を変えずに「担当者兼任案」を実施することにしました。

2、担当者に兼任させた結果…

 半年後、何が起こったかといえば、兼任とされた担当者が、ほとんど中・長期のテーマの仕事をできず(せず)に時間だけが過ぎてしまいました。

 担当者に聞くと「開発の仕事が多忙で、とても中・長期のテーマに人も時間も割いている余裕がなかった」とのこと。開発部長も「緊急度が高い開発の仕事を優先してやってもらった」と言い分けします。こうしてA社では、半年も中・長期のテーマに手を出すのが遅れてしまいました。私からすると、案の定の結果になったというところです。

 半年間成果がなかったことにしびれを切らした社長は、1度解散した8人の部長会を再開し、冒頭の発言をするに至りました。社長の言葉をより正確に伝えると、以下のようなものでした。「絶対に、自分は中・長期のテーマに資源を投入するのだ。これは、不退転の決意であり、『できない』はない。それでも執行は諸君に委ねている。だから、従来通りの発想にとどまることなく提案してほしい」。

 語気を強めて真剣なまなざしで発した「不退転の決意」という社長の言葉。この言葉が部長会合をよみがえらせました。その会議で社長は、半年間の猶予の割に結果が出ていないことへの責任を追及することもできたでしょう。しかし、そうはせずに全面的に支援する姿勢を示しました。その上で「不退転の決意」という力強い言葉を加えたのです。すると、大きな変化が起きました。

 それまでは現状維持路線でリスクを取ろうとしなかった部長が、これまでの反省も踏まえて積極的にリスクを取る発言をするようになったのです。具体的には「専任案」を採用し「新設部署に誰が行くべきか?」や「どのようなミッションを持たせるか?」について真剣に検討し始めたのです。「開発部長に兼任者をぶら下げておけば何とかなるだろう」といった半年前の雰囲気は一変しました。

3、経営者の語気と表情は全てを語る

 繰り返しますが、社長は「不退転」という言葉を使いました。その語気や表情からは社長が本気であることが誰の目にも明らかでした。では、社長の本気にスイッチが入り、会社全体が動いたA社のその後がどうなったかをお伝えしましょう。

 新設組織が出来たのは言うまでもありません。新設部署の長として配属されたのは、A社で「エース課長」と目されていた若手でした。仮にBさんとします。部長級会合では、若いBさんを、事実上同格の部長とする采配を行いました。8人の部長に聞けば、若いBさんを新設部の長に当てることについて、心理的な抵抗がなかったわけではないようですが、それでも実施に踏み切りました。

 件(くだん)のBさんですが、顧客の要望に対応する開発課長の仕事から解放されると同時に、数年前から温めていたテーマを3つ実施することにしました。まだこの3つのテーマには結果が出ていませんが、3つとも顧客の要望に対応するのではなく「業界初」なのです。また、知財調査の結果、有望なことも分かっています。その結果が楽しみです。

 A社の事例ですが、決して「社長の思い通りになった」わけでも「鶴の一声」というわけでもありません。社長の本気が語気・表情・言葉となって部下に伝わったために、起こるべくして起こったことです。そして、この例は、本気の上司に支援を受けた部下は本質をついた意思決定をする良い事例であると私の記憶に残っています。経営者たるもの、こうありたいものです。

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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