1.ワイブル解析~製品の信頼性の現状や対策効果を把握
統計の種類には、対象の性質や特徴を見極める記述統計とある事象の因果関係を検証する推論統計があります。統計解析では、難しい統計計算を平易にするために、対象の事象を確率分布に近似させることが一般的です。
確率分布の代表例としては、正規分布、二項分布、ポアソン分布、t分布、F分布、カイ二乗分布等が良く知られていますが、今回紹介するワイブル分布も有用な確率分布です。ワイブルの語源は、この分布の活用を推奨した人の名前です(W.Weibull・スウェーデン)。
2.品質と信頼性、ワイブル解析の対象は信頼性の評価
品質とは「要求されたニーズ(機能)を満たす程度」と一般に定義されています。
信頼性とは、「与えられた条件の中で、規定の期間中、要求されたニーズ(機能)を満たす程度」と定義されています。信頼性は、品質の定義に「規定の期間中」という時間軸が追加されています。
お気に入りの家電を購入した場合、購入した当初は所期の性能を満足することは当然として、時間とともに品質がある程度劣化していくことは仕方がないと納得できますが、使用したい期間中に故障してしまうと納得できません。この製品は信頼性が低いといい、時にはクレームの対象となります。
ワイブル解析の対象は、時間軸を考慮した品質すなわち信頼性となります。
3.品質管理では良品不良品、信頼性では故障するかしないか
信頼性の議論は、使い始めは良品であることが前提です。良品を使用中にその機能を果たさなくな...
信頼性の良し悪しは、故障率で表現することが一般的です。信頼性の故障率は、単位時間当たりの故障率で表すことが多く瞬間故障率ともいいます。
表1は、50個の製品の耐久試験結果です。各時刻に故障した個数を記録しています。
瞬間故障率は、各時間帯に故障した個数をそのとき残存していた個数で割り、更に単位時間で割ります。例えば、7.5~10.0hrの2.5hrの間に5個故障しています。そのときの残存数は44個です。瞬間故障率=5個÷44個÷2.5時間=0.045/hr となります。
図1は、表1のデータを基に縦軸を瞬間故障率、横軸を時刻とした故障率の時間変化を表しています。
4.故障に至る3つのパターン
故障率が時間とともにどのように変化していくかで、
- 故障率減少型
- 故障率一定型
- 故障率増加型
と表現されます(図2参照)。
表1のデータは故障率増加型といえます。
5.時間とともに変化する製品の故障率
図3は、バスタブ曲線といい、お風呂のバスタブの形状に似ていることから名付けられています。
故障率が時間と共に変化していることを表しています。この図の理解に人間の一生を当てはめると分かりやすいと思います。
縦軸は死亡率、横軸を年齢としたとき、生まれた直後は抵抗力が低く死亡率が高い状態ですが、少しずつ体力が付き死亡率が低下します。そして青年、壮年期に入るとしっかり体力がついて病気にかかりにくくなり、事故や突発的な要因による死亡が主体となり死亡率は低く一定状態が続きます。その後、年を取ってくるとだんだん体力が無くなり、死亡率が上昇します。
製品に置き換えると、故障率が減少している領域を初期故障期、故障率が一定の領域を偶発故障期、故障率が上昇する領域を摩耗故障期といいます。
製品が許容される故障率以下で機能を果たせる期間を耐用寿命といいます(図3参照)。
6.故障パターンによって変わる対応策
- 初期故障・・・製造要因によるばらつきの低減が有効
デバッギングや慣らし運転後に製品を出荷する - 偶発故障・・・要求される故障率以下であれば静観します。
許容される故障率を超える場合は設計的な対策が必要になります。 - 摩耗故障・・・摩耗故障が始まるまでの時間(耐用寿命)が長い場合は静観、耐用寿命より短い時間で摩耗故障が発生している場合は、設計的な対策を行うか定期交換等の予防保全を行います。
7.ワイブル解析の必要性
このように故障のパターンにより対応策が変わってきますので、顧客の使用期間中に発生している故障モード、故障率そして故障のパターンを知ることは重要になります。これらを精度良く簡単に分析するために、ワイブル解析が必要になります。
顧客の関心事は、使用期間中に故障するかしないかですが、メーカー側は故障率に加え、故障のパターンを知ることが製品の信頼性向上に欠かせないことです。
8.ワイブル解析の積極的活用を
故障率を下げ、耐用寿命を延ばすことすなわち、信頼性の向上はメーカーにとって最重要課題です。
故障率に加え、故障のパターンを定量的に把握するためには、表1に示すようなデータが必要となりますが、現実は全ての製品の寿命データを収集することはほとんど不可能に近い状態です。ほとんどのデータは不完全データですが、エクセルや統計ソフトを活用し、少し工夫を加えることで、精度良く簡単に解析することができます。
製品の信頼性の現状や対策効果を把握するための手段であるワイブル解析を積極的に活用することを提案します。