:実行手順 アウトソーシング(その2)

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【アウトソーシング、連載目次】

♦ アウトソーシング成否のカギは“トップの本気度”

 前回はアウトソーシングの意味と留意点についてお話しましたが、今回はその実行手順について解説します。企業が闇雲にアウトソーシングを導入して失敗した事例はたくさんありますので、慎重に準備を進める必要があります。大まかな流れとしては①外部委託範囲の決定②業者選定③契約の順で検討を進める必要があります。
 ではこの手順に従って以下説明します。

1.外部委託範囲の決定

(1)方針の決定

 アウトソーシングに関する意思決定は慎重に進めなければなりません。そのためにはどのような目的でアウトソーシングを導入するのかを明確にする必要があります。今後会社として進むべき目標や方向性を検討し、経営戦略上どの分野に経営資源を集中させるかを決めます。

 また、アウトソーシングの実施はトップ主導で行われるべきで、成功のカギは導入の過程でトップがリーダーシップを示せるかに懸かっています。

 

(2)自社業務の見直し

 自社で行っているすべての業務について洗い出しをします。その中でどの業務にどれだけの時間がかかっているか、専門性があるか、定型的な業務であるかなどを洗い出します。

 この作業は委託範囲の決定以外に現在行っている業務を見直す上でのメリットがあります。この段階では、業務改善の一貫や職能給の導入のためといった理由で業務の洗い出しを各社員に依頼し、アウトソーシングの検討であることは伏せておきます。

(3)委託範囲の決定

 アウトソーシング候補業務をリストアップします。これらの業務について現状分析を行い、業務量、業務に必要な時間、業務を担当している人数、定型業務か非定型業務かを調査し、アウトソーシングが効果的かを判断し、その範囲を決定していきます。

 その際アウトソーシングの目的を明確にする必要があります。例えば経理事務のアウトソーシングであれば、経費削減が大部分を占めるでしょうが、情報システム部門のアウトソーシングであれば、単に経費削減だけでなく、専門的知識の活用という戦略的な目的が含まれてきます。経費削減の目的だけであれば、アウトソーシングまでいかなくても業務の見直しだけで済む場合もあります。

 委託範囲を決定した後は、その業務を行っていた社員の処遇も同時に決定していきます。アウトソーシングの導入は社内の反発を招く場合もあります。会社の方針としてアウトソーシングを活用していくことをトップダウンで告知し、強力かつ迅速に進めていくことが必要です。

(4)社内調整と優先順位の決定

 すべての業務を一度にアウトソーシングすることはリスクを伴います。どの分野のどの業務からアウトソーシングをしていくか優先順位を決定します。

2.業者の選定:社風の違いなど見極めも大切

 いよいよ委託先選定の段階に入りますが、委託先次第では効果が半減することになり兼ねず、アウトソーシング導入に関して最も重要なポイントとなります。

(1)委託先の開拓

 委託範囲が決定したところで、委託先の開拓をする必要があります。最近ではインターネット上で日本経済新聞社が「アウトソーシングサーチ」というアウトソーシング業者を検索できるサイトを構築しています。日経BP社もアウトソーシング専門の展示会を毎年開催しています。

 また、実際にアウトソーシングを利用している取引先等から紹介してもらうのも確実な方法です。

(2)調査と絞り込み

 委託先に関する情報を幅広く集め、有望な情報をいくつかリストアップします。そしてそれらの会社と接触して概略調査を行います。会社案内等を提示してもらい聞き取りで調査します。

 次にアウトソーシングする業務範囲と「目的・効果」を明確にした上で、見積りと提案書を提出してもらいます。これを比較検討していきます。業務洗い出しの結果判明した自社の問題点を伝え、その解決策を提案してもらうことで委託先の実力を測ることができます。また見積りには、個々の料金だけでなく、期間内の総額費用も見積ってもらいます。

(3)選 定

 ここでは次の委託先の選定基準に沿ってチェックしていきます。

  1. 専門性の有無
  2. コスト削減ノウハウ
  3. 信頼性
  4. 規 模
  5. 相 性

 この際にそれぞれの項目にウエイト付けをしておくと良いでしょう。アウトソーシングの目的はさまざまですが、自社の一番の目的に高いウエイトを付け、総合点で委託先を決定します。

 この5項目のうち最も重要なのは相性です。失敗事例として提携を決めてからの作業段階において社風の違いなどが分かり、うまくいかなかった事例が指摘されています。

3.契約:委託範囲の明確化と解除に関する事項は重要

(1)委託内容

 委託内容の範囲を明確にしておくことは後々のトラブル防止につながるものであり、極めて重要です。細部に渡る事項までチェックする必要があります。例えば、給与計算を例に取ると、給与が改定された場合の諸届けは誰が行うのか、また法定調書は誰が作成し、送付するのかなど、細かなことはいくらでもあります。

 委託元がやるのか、委託先がやるのか明確になっていないと、最悪の場合どちらもやっていないということになり兼ねません。したがって初期段階での業務の洗い出しが極めて重要となります。

 また業務の進め方も重要な要素です。資料のやり取り、スケジュールなども確認書を作成し、明確にしておくことが求められます。

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【アウトソーシング、連載目次】

♦ アウトソーシング成否のカギは“トップの本気度”

 前回はアウトソーシングの意味と留意点についてお話しましたが、今回はその実行手順について解説します。企業が闇雲にアウトソーシングを導入して失敗した事例はたくさんありますので、慎重に準備を進める必要があります。大まかな流れとしては①外部委託範囲の決定②業者選定③契約の順で検討を進める必要があります。
 ではこの手順に従って以下説明します。

1.外部委託範囲の決定

(1)方針の決定

 アウトソーシングに関する意思決定は慎重に進めなければなりません。そのためにはどのような目的でアウトソーシングを導入するのかを明確にする必要があります。今後会社として進むべき目標や方向性を検討し、経営戦略上どの分野に経営資源を集中させるかを決めます。

 また、アウトソーシングの実施はトップ主導で行われるべきで、成功のカギは導入の過程でトップがリーダーシップを示せるかに懸かっています。

 

(2)自社業務の見直し

 自社で行っているすべての業務について洗い出しをします。その中でどの業務にどれだけの時間がかかっているか、専門性があるか、定型的な業務であるかなどを洗い出します。

 この作業は委託範囲の決定以外に現在行っている業務を見直す上でのメリットがあります。この段階では、業務改善の一貫や職能給の導入のためといった理由で業務の洗い出しを各社員に依頼し、アウトソーシングの検討であることは伏せておきます。

(3)委託範囲の決定

 アウトソーシング候補業務をリストアップします。これらの業務について現状分析を行い、業務量、業務に必要な時間、業務を担当している人数、定型業務か非定型業務かを調査し、アウトソーシングが効果的かを判断し、その範囲を決定していきます。

 その際アウトソーシングの目的を明確にする必要があります。例えば経理事務のアウトソーシングであれば、経費削減が大部分を占めるでしょうが、情報システム部門のアウトソーシングであれば、単に経費削減だけでなく、専門的知識の活用という戦略的な目的が含まれてきます。経費削減の目的だけであれば、アウトソーシングまでいかなくても業務の見直しだけで済む場合もあります。

 委託範囲を決定した後は、その業務を行っていた社員の処遇も同時に決定していきます。アウトソーシングの導入は社内の反発を招く場合もあります。会社の方針としてアウトソーシングを活用していくことをトップダウンで告知し、強力かつ迅速に進めていくことが必要です。

(4)社内調整と優先順位の決定

 すべての業務を一度にアウトソーシングすることはリスクを伴います。どの分野のどの業務からアウトソーシングをしていくか優先順位を決定します。

2.業者の選定:社風の違いなど見極めも大切

 いよいよ委託先選定の段階に入りますが、委託先次第では効果が半減することになり兼ねず、アウトソーシング導入に関して最も重要なポイントとなります。

(1)委託先の開拓

 委託範囲が決定したところで、委託先の開拓をする必要があります。最近ではインターネット上で日本経済新聞社が「アウトソーシングサーチ」というアウトソーシング業者を検索できるサイトを構築しています。日経BP社もアウトソーシング専門の展示会を毎年開催しています。

 また、実際にアウトソーシングを利用している取引先等から紹介してもらうのも確実な方法です。

(2)調査と絞り込み

 委託先に関する情報を幅広く集め、有望な情報をいくつかリストアップします。そしてそれらの会社と接触して概略調査を行います。会社案内等を提示してもらい聞き取りで調査します。

 次にアウトソーシングする業務範囲と「目的・効果」を明確にした上で、見積りと提案書を提出してもらいます。これを比較検討していきます。業務洗い出しの結果判明した自社の問題点を伝え、その解決策を提案してもらうことで委託先の実力を測ることができます。また見積りには、個々の料金だけでなく、期間内の総額費用も見積ってもらいます。

(3)選 定

 ここでは次の委託先の選定基準に沿ってチェックしていきます。

  1. 専門性の有無
  2. コスト削減ノウハウ
  3. 信頼性
  4. 規 模
  5. 相 性

 この際にそれぞれの項目にウエイト付けをしておくと良いでしょう。アウトソーシングの目的はさまざまですが、自社の一番の目的に高いウエイトを付け、総合点で委託先を決定します。

 この5項目のうち最も重要なのは相性です。失敗事例として提携を決めてからの作業段階において社風の違いなどが分かり、うまくいかなかった事例が指摘されています。

3.契約:委託範囲の明確化と解除に関する事項は重要

(1)委託内容

 委託内容の範囲を明確にしておくことは後々のトラブル防止につながるものであり、極めて重要です。細部に渡る事項までチェックする必要があります。例えば、給与計算を例に取ると、給与が改定された場合の諸届けは誰が行うのか、また法定調書は誰が作成し、送付するのかなど、細かなことはいくらでもあります。

 委託元がやるのか、委託先がやるのか明確になっていないと、最悪の場合どちらもやっていないということになり兼ねません。したがって初期段階での業務の洗い出しが極めて重要となります。

 また業務の進め方も重要な要素です。資料のやり取り、スケジュールなども確認書を作成し、明確にしておくことが求められます。

(2)契約金額

 個々の委託内容について細部に渡り記載することが必要です。このためには見積もり段階から、個々の委託業務のレベルで見積りを取ります。委託業者側の営業マンは嫌がることもありますが、後々のことを考えると疎(おろそ)かにすべきではありません。

(3)委託期間

 契約期間、開始時期、終了時期、解除に関する事項を盛り込む必要があります。特に契約の解除に関する事項は重要です。契約解除の条件を明示するとともに、事前告知する義務を設けるなどして、止む無く契約を解除する場合であっても、相互の信頼関係を崩さない配慮が必要です。

(4)危険負担・業務不履行・損害賠償

 不可抗力で業務にミスが生じた場合の措置のほか、委託先の責任で債務が不履行になった場合の責任や損害賠償について契約時に明確にしておきます。

(5)試用期間(仮契約)

 アウトソーシングは、新規に開始する業務では委託にすぐ入れることが出来ますが、社内で日々動いている経理や給与計算等の業務をすぐに移行することは不可能であり危険です。

 そこで一定期間は同時並行的に業務を進めてもらうことになります。この期間でアウトソーサーの力量を試し本格委託に移します。したがって、契約についても一定期間の試験期間あるいは仮契約期間を設けておくと良いでしょう。

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この記事の著者

林 隆男

「ものづくり・人づくり・仕組みづくり」を指導理念として、これまでに100社以上の中小製造業を指導して来ました。業界特性を熟知して経験豊富なコンサルタントが指導に当たります。

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