続 Painのインパクト 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その89)

 

 今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素、「自律性」と「有能感」の内、後者の実現手段として「有能感獲得に向けて積極的に活動する」について解説します。前回同様、皆さんが「新事業創出チームメンバー社内公募に手を挙げるかどうか」の判断をする場面を想定し、全体プロセスの4つ目に当たる「4. Painのインパクトや起こる可能性を低減する方法を考える」についてお話します。

◆関連解説記事『技術マネジメントとは』

 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その85)で解説した下記リストの(4)が今回のテーマです。

 

1、Painのインパクトや起こる可能性を低減する方法を考える

 実は、ここまで考えたPainのインパクトや起こる可能性の多くは、不変ではありません。自分自身の認識や主体的活動により、それらを変えたり低減することは十分可能です。そこには必ずしもその境界は明確ではありませんが、2つの視点、すなわち「自分自身の認識を変える」と「自分自身の主体的な活動により負のインパクトを減らす」から考えることができます。以下に一つひとつ解説をしていきたいと思います。

(1) 自分自身の認識を変える

 例えば、今回の「新事業創出チームメンバー社内公募に手を挙げるかどうか」の中で、大きなPainとして、プロジェクトが失敗に終わり、自分のキャリアに傷がつくというものがあるとします。しかしプロジェクト自体が仮に失敗に終わっても、自分のキャリアに傷がつくどころか、そのキャリアを押し上げることもできるかもしれません。

 仮に失敗となっても、そこから自分自身の教訓を学べるようにするなどの考え方があります。失敗から学ぶということは、世の中で認識されている重要なことと私は考えています。

 

 ゼロ戦という傑作機を設計した堀越二郎という技術者がいます。しかし堀越二郎がゼロ戦を生み出した背景には、大失敗の経験があります。堀越二郎は、ゼロ戦の前に七試艦上戦闘機を設計しており、実はこの戦闘機は大失敗に終わりました。

 その写真を見ると、後に堀越二郎が設計したゼロ戦は極めて美しく機能美を感じさせるものですが、七試艦上戦闘機はみるからに武骨で、そこには機能美はなく、見るからに失敗機だなと感じさせる外見をしています。

 つまり、たとえば仮に失敗に終わっても、目一杯の活動を行い「最大の教訓を学ぶんだ」と腹をくくることで、プロジェクト失敗の負のインパクトを大きく減らすことができるのです。このように、自分自身の認識を変えることで、Painのインパクトを変えることができるのです。

(2) 自分自身の主体的な活動により負のインパクトを減らす

 もう一つの視点が、自分自身の主体的な活動により負のインパクトを減らすことです。

 例えば「新事業創出チームメンバー社内公募に手を挙げる」ことで、自分の関心分野の研究...

ができなくなるというPainがあったとします。しかし視点を変えて、新事業創出のプロジェクトに参加すると同時に、既存の研究を続けるということも可能かもしれません。

 仮にその社内公募の前提が、部門を移るということと決められていても、事務局部署に掛け合って3Mの15ルールのように、15%の時間で既存の研究を続けるということも、許されるケースはあるかもしれません。会社にとってデメリットがなければ、そのようなことも許容される可能性はあります。

 すなわち社内の前提、世の中の常識も必ずしも不変ではありません。自らの認識や主体的な行動により、変えることができる場合も多いのです。このように考え、行動することで、仕事や人生において大きく自由度が高まります。


 次回に続きます。

 

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