イノベーションを起こすための自分の知識や経験を整理する重要なフレームワークとして「本質」と「それ以外」があると思います。「本質」を見極め「それ以外」ではなく「本質」を考えることに集中することで、イノベーションを起こすことが可能となると考えるからです。それでは本質と何でしょうか。今回も前回に引き続き、そもそも「本質とは何か」の解説をしたいと思います。
1. 私の考える本質とは:「当事者が認識している議論の対象の存在意義やその存在意義に関連している重要な特徴」
前回は「本質の定義は、当事者の課題意識によりいかようにも変わるもの」という解説をしました。ということは、本質の定義を「当事者が認識している議論の対象の存在意義や、その存在意義に関連している重要な特徴」と考えることができるのではないかと思います。
2. シマノの例
私は2007年に「プロフィットピラミッド」という本を上梓し、その中で自転車部品や釣り具のメーカーであるシマノの高収益実現の仕組みについて著しました。シマノは過去から今にいたるまで高収益企業で、15%以上の売上高営業利益率を実現しており、先期においてはその数値は20%以上となっています。
このようなシマノの高収益の背景には、継続的なイノベーション、特に商品企画においてその創出がありますが、シマノが商品企画で重視していることに、本質をとらえた商品企画があります。次に「プロフィットピラミッド」の中で、それについて記述した部分を引用します。
『シマノの商品企画において、徹底的な顧客観察と同様に重視しているのが、顧客が本質的に求める「機能」に基づく商品企画です。その本質的な「機能」を充足するにはどんな商品が必要か、から考えるわけです。本質的機能とは、自転車で言えば、速く、快適にそして安全に自転車に乗れるということです。「速く」や「快適性」という機能の追求から生まれたのが、変速操作を簡単にできるSISやSTIです。』(「プロフィットピラミッド 超高収益経営を実現する14のシンプルな原則」(ダイヤモンド社)、浪江一公著)
(1)自転車部品の購入者にとっての自転車部品の「存在意義」と「存在意義に関連している重要な特徴」
シマノは自社の自転車部品の存在意義を「速く、快適にそして安全に自転車に乗れること」と定義しています。シマノの社員はこの「存在意義」を皆で共有し、その存在意義、すなわち自社の製品の本質に対し強い課題意識をもっています。そして、常に「存在意義に関連している(実現する)重要な特徴」とは何かを考え、イノベーティブな製品を実現しようと日々積極的な活動をしているということです。
(2)社員が「本質とは何か」とその重要性を理解している組織はイノベーションを継続して実現できる
イノベーションはその本質もしくはその周辺において起こるものです。そのため、イノベーションを継続して起こす組織は、そもそも自組織の活動、事業、製品の本質すなわち「存在意義はなにか」を理解し「存在意...
(3)自社の「存在意義」を徹底して問い質す
多くの企業でのこの自社の「存在意義」が、極めて不明確です。
創業時はこの点は比較的明確です。しかし、その後成長をする中で、良くも悪くも周りの環境に合わせて自社を変幻自在に変えてきている課程で、その「存在意義」の意識が希薄になってしまうものです。このような企業においては、イノベーションの前提となるこの自社の存在意義を徹底して、問い直す必要があります。
次回に続きます。(記事に添付の写真と記事内のメーカー名は無関係です)