クリーンルームの中で気流を可視化して確認することを解説してきました。この気流によるゴミの流れはクリーンルームに限ったことではありません。小さなことにも気を付けてみると、身の回りでも同じようなことに気が付くでしょう。そのことで、ゴミの見方も変わってきます。一面ではなく多面的な見方、考え方ができるようになると思います。今回も、前回に引き続き、気流についてです。
1.設備のファンも要注意
設備には、冷却ファンがついているものがあります。冷却ファンは、内部の熱を排出しながら設備を冷やすタイプ、逆に設備内に周囲の空気を吸い込み冷やすタイプがあります。このファンも空気が通過する場所なので要注意です。
吹き出すタイプは、設備内で発生したゴミも一緒に吹き出します。その場合、吹き出し付近の清浄度が低下します。逆に吸い込む場合は周囲の悪い雰囲気も吸い込むので、設備内が汚れます。ファンは、設備の下の方に設置されている場合が多いので、床付近を汚したり、汚れた雰囲気を吸い込むことになります。
【トラブル事例-1】
設備のファンから内部の汚れも一緒に吹き出すので、そこに静電シート(静電対策されたビニールシート)を取り付け垂らした。これでゴミは飛散よりは落下するだろうと考えた作業者の改善です。(飛散防止の考え方)
ところが、そのファンは吸い込むタイプだった。その静電シートが吸われ、ファンに密着してしまい、空気の取入れができなくなった。これでは設備を冷やすことができず、逆に設備内部の温度が上昇し、設備が停止したという例です。ファンがどちらに回転しているかを確認しなかった例です。
【トラブル事例-2 】
私が、ある現場の診断に呼ばれた時のことです。新しい設備が向かい合ってたくさん並んでいました。その設備を観察していたところ、職場の責任者が、“その設備は購入し、立ち上げたばかりで見ても仕方ありません。最新の設備です”というのです。私がおかしいと気づいて確認していたのは、ファンの回転が揃っていなかったのです。
その設備には、背面に2個ずつファンが設置されていましが、ファンが正常に回転しているもの、反対に回転しているもの、そして止まっているものなどバラバラでした。そのことを告げ、持っていた気流確認用の糸でその様子を見せました。気流の流れを見せることは口で言うより説得力があります。「そして、ファンの目的は何でしょう」ということになるんです。
製品を流動する前の、条件出しの段階での製品品質にばらつきがあることが確認されていたのですが、その原因究明に繋がった例です。新しいから大丈夫、メーカーが立ち上げたのだから大丈夫という先入観があります。そして落とし穴にはまってしまったのです。
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いかがでしょうか。たかが気流、空気の流れではありますが、その中には考えようによっては、様々な見方、考え方ができます。気流は目に見えないので、意識する人は少ないですが、見えないものが製品品質に影響している場合もあります。ものづくりの現場では、気流の管理も見逃してはいけないのです。
このようなことは地道にやってもなかなか評価はされません。米作りにたとえたクリーン化というところで説明したかったのは、そのような水面下の努力を評価し、光を当てたいということに思いがあります。名のあるお米も、それを作るお百姓さんの地道な努力があることを忘れてはいけないのです。製品品質の作り込みは、現場で実現するのです。
余談ですが、私の気流測定でのちょっとした事例をお話しします。
層流方式のクリーンルームの気流を確認しようとした、当時、私を指導してくれた先生が、「これを使いなさい」と言って釣竿を貸してくれました。金属製でゴミ、埃の出ないものでした。それを使ってクリーンルーム内で気流を確認していたところ、年配の人が寄ってきて「こんなところ...
そこで、その場所で起きている品質問題を探るため気流確認をしていることを具体的に糸の流れを見せて説明しました。そしたら納得してくれて、気流の影響などに興味を持ってくれました。
ある時、室内の隅で気流によりゴミが渦巻いているのに気が付き、屈んで観察していました。するとその方が“具合が悪いのか”と寄ってきたことがありました。それ以来、その方と気軽に話ができるようになり、様々な情報も提供してくれるなど、現場の情報を得やすくなりました。アンテナが一つ増えたということです。若いころのこのような経験の一つ一つが、現場診断、指導に繋がっています。現場が一番情報を持っています。これを活用したいです。
次回に続きます。