【サプライチェーンマネジメントによる全体最適化 連載記事目次】
1. SCMはなぜ難しい
2. SCM戦略とは
3. 変動メカニズムと対策
前回は、SCMの解説と困難にしている要因について、解説しました。過剰在庫と欠品リスクのバランスを取る難しさがあります。またSCMを困難にする4つの要因についても解説をしました。今回は、SCM戦略を中心に解説を行います。
1.SCM戦略①:生産方式
SCMの目的を達成するための生産方式は大きく2つに大別できます。
- プッシュ生産方式
- プル生産方式
プッシュ生産方式は、需要予測に基づいて生産計画を立て、それに従う方法です。在庫を前提とするため欠品リスクは小さいですが、需要予測が外れると在庫になるリスクがあります。
一方のプル生産方式は、在庫を持たずに売れた分だけ生産する方法です。トヨタ自動車のJITがこの代表例です。在庫は抑制できますが、リードタイムが長い製品では、欠品リスクを負うことになります。
このようにどちらが優れているというものではなく、製品種類・需要の変動幅から最適な生産方式を選択するものである。
2.SCM戦略②:プル・プッシュ混合方式
またプッシュ生産とプル生産を組み合わせる場合もあります(下記)。製品の共通部分はプッシュ生産で、多様化をプル生産で行うものです。なおこの境界をデカップリングポイントと呼びます。
有名な事例として、ベネトン社の後染めセーターがあります。白色のセーターを共通部分とし、計画的に生産するプッシュ生産としています。一方で顧客への販売量に応じて、後染めでセーターの多様化を行います。なお、染色前のセーターをデカップリング在庫と呼びます。
この方式を採用した理由は、どの色が、どのくらい売れるかは予測しづらいです。しかし、セーター自体が売れる量は予想しやすいので、染色前の白色セーターにはプッシュ生産方式を採用します。
顧客の選択肢を増やすために様々な色で在庫を持つと、売れないものは不良在庫となります。そのため売れた分だけ、後染めで補修できるようなプル生産方式を採用しました。また後染めならスループットが短いので、顧客要求のリードライムよりも短くできる。
こう書くと簡単に聞こえますが、後染めができる商品作りや後染め工程などSCMに合わせた商品開発や生産工程を構築する技術が必要になります。
3.SCM戦略③:ポストポーンメント
もう一つの戦略です。プル生産にあたる多様化を顧客近辺で実施するものです。輸送時間などを更に削減し、スループットを短縮する戦略です。これをポストポーンメント戦略と呼びます。
先ほどの後染めセーターを例に取ると、すべての生産を一拠点、例えば中国で行うと、米州・欧州への顧客には輸送期間分のタイムラグが発生し、スループットの短縮に限りがあります。そこで、中国では後染めできる白...
以上、SCM戦略について解説しました。どれも生産部門だけで対応できるものではなく、設計段階からの取り組みなど横断的な活動が必要となります。一朝一夕でできるものではありません。全社一丸での取り組みが必要です。