【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その131)へのリンク】
現在「切り取った知識の重要部分を発想するフレームワークを使って、イノベーションを発想する」にむけて、日々の活動の中でどうイノベーションを創出するかについて、解説しています。今回からは、失敗のコストのマネジメントについて、議論をしていきたいと思います。
●「踏み出すこと・踏み出そうとすることで発生する直接的コスト」×「金銭的コスト」
何か新しいことにチャレンジしようとすると、そこには金銭的コストが掛かります。その金銭的コストの問題を解決しないと、そもそもチャレンジは始まりません。そこへの対処の方法を解説します。
●チャレンジに少額の資金を提供する:アドビのキックボックスの例
文書のPDF化のマネジメントソフトを提供する米国のアドビでは、誰でも新規開発をしようとする者は、キックボックスという、ペンやノート、スターバックスのギフトカード、チョコレート、そして1000ドル分のプリペイド式クレジットカードが入っている箱をもらうことができます。
この1000ドルを使って、その開発に関わるなんでも使えるというものです。また、その結果の報告もする必要もありません。
小さなことでも、何かをしようとすれば、お金が掛かります。その最初の小さな一歩が始まらないと、後に大きなイノベーションを起こすような製品やサービスは「絶対」に生まれません。このような最初の小さな一歩を踏み出すことを促す仕組みが、このキックボックスです。
またこのキックボックスは、会社側のイノベーションに向けての最初の一歩から支援するという重要なメッセージでもあります。
アドビのように報告不要とすると、不正利用への懸念も発生します。しかし、その点に関しては、一件ごとの管理ではなく、年間を通してこのような活動からどのような成果が生まれたかを、個人レベルで振り返るということで対処する、ということで良いように思えます。
●チャレンジの資金を予算化する
このような少額の支援により、イノベーションプロジェクトへの第一歩の取り組みを奨励する仕組みは、大変有効に思えます。そのためにも、年間のこのような活動への資金を予算化し、計画予算の使用の達成を促すことも重要と思われます。
官公庁の予算のように、予算の消化が目的になるというのは、仕組みが形骸化してしまうと思われるかもしれませんが、初期のイノベーション活動促進の手段として、そのための一つの目標指標としてマネジメントの対象とするのは、意義あることに思われます。
●チャレンジに少額の...
近年、行動経済学が注目を浴びていますが、その中に「ナッジ理論」があります。
ナッジ(nudge)とは、「注意を引くために・合図するために肘で人を軽く突く」(出所:英辞郎)という意味です。ナッジ理論とは、強引な強い力ではなく、軽い力、仕組みで、ある行動を促すことができるという理論です。まさに、チャレンジへの少額の資金提供は、イノベーションの第一歩を促す「ナッジ」と言えます。
次回に続きます。