現代のような不確実性の時代に、技術者や管理者に最も求められる能力は、価値観や社会システムがどんなに変わろうとも陳腐化しない汎用的な問題解決能力です。筆者はこのような問題解決の技術こそが「システム思考」や「論理思考」であると考えています。その両者を備えているのが、ラッショナル思考法またはKT(Kepner Tregoe)法と呼ばれるものです。この思考法はグローバルスタンダード化され世界中の企業で活用されてきました。筆者は特に、TRIZやタグチメソッドとの併用を勧めています。それにより「諦めかけていた慢性トラブルの解決や課題解決のリードタイム短縮に大きな成果を挙げてきた」と多くの報告を受けています。
これから5回に分け、次の順で紹介していきます。なおKT法の詳細を書物に転載することをKT社は認めていません。筆者は、粘り強い交渉の結果、いくつかの条件を記載することで掲載を認めていただきました。したがって、本記事の転載は固くお断りします。少人数での個人的な勉強会での使用のみに限定してください。
【連載目次】
1、KT法とは ← 今回の解説
1. KT法とは
1.1 KT法の狙いとそのプロセス
多くの人たちは、次のような特徴(クセ)を持っているようです。
① 先入観にとらわれる
② 定義を明確にしないで議論に入る
③ 結論を急ぎ、対策にジャンプする
④ 自説に固執する
これらに対して、ラッショナル(Rational)思...
KT法(ラッショナル思考法)は「状況分析」、「問題分析」、「決定分析」、「潜在的問題分析(リスク分析)」という4つのプロセスから構成されています。図1.1にそれらの連関図を示します。状況分析を核として単独または組み合わせも可能となります。
図1.1 KT法の分析手法連関図
©2002 Kepner-Tregoe、 Inc All Rights Reserved
1.2 各手法のプロセスフローと留意点
次に、各々の手法のプロセスフローと留意点をチェックポイントとして少し分かり易く整理すると図1.2のようになります。
状況分析(SA:Situation Appraisal)で注意することは「分かったつもりになっていないか」です。なお、ステートメント化とは、具体化された関心事についてどんな分析を進める必要があるかをステートメントとして記述することです。例えば原因究明が必要なときには差異ステートメント、最適案の選択の場合には決定ステートメント、リスク対策の場合には実施計画ステートメントとなります。
図1.2 KT法のプロセスフローとチェックポイント
© 2002 Kepner-Tregoe、 Inc All Rights Reserved
問題分析(PA:Problem Analysis)で注意することは「先入観にとらわれていませんか、結論を急ぎ、対策にジャンプしようとしていませんか」です。なぜ起きたのかを繰り返して、真の問題点をつきとめることをステア・ステップ(≒なぜなぜ展開)と呼びます。例えばステア・ステップを繰り返すと次のようになります。「エンジンから油が漏れた」⇒なぜ?⇒「エンジンの接合部から油が漏れた」⇒なぜ?⇒「接合部の角部に亀裂が入った」というようになります。
決定分析(DA:Decision Analysis)で注意することは「固定観念にとらわれ、過去の延長線上の案となっていないか」です。ここでは、経験による判断や直観力も重要なため、仮決定された案についてそれらも加味したリスク対策を考える必要があります。すなわち、仮決定された案についてマイナス影響を考慮し取り除くことが重要となるわけです。
潜在的問題分析(PPA:Potential Problem Analysis)で注意することは「自説に固執しないで謙虚にリスク対策を受け入れているか」です。予防対策と発生時対策の2本立てとなっているかが重要となります。
最後にKT法は目的・目標を明確にして、論点を整理して議論を進め、議論の進め方も参加者が考えを同一にして結論を求めていくので非常に合理的な方法となるはずです。そしてKT法は情報の集め方、思考の手順、議論の進め方をモデル化しています。どこからでも入り込み、時にはプロセスを省略して4つの手法を柔軟に使いこなせばよいのです。またプロセスの中でフィードバックすることも必要です。
使いこなすには少し実践訓練が必要となります。
(KT法の問合せは、ケプナー・トリゴー日本支社〒107-0051東京都港区元赤坂1-7-18 元赤坂菊亭ビル 電話 03-3401-9521)
参考文献:
粕谷茂,「プロエンジニア(コンピテンシー構築の極意」,株式会社テクノ(2002)