【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その136)へのリンク】
前回は会社の経営陣やマネジャークラスがイノベーションとは何かを理解していない、もしくは各企業におけるイノベーションとはが明確になっておらず、その結果、必然的に、イノベーションのための活動は生まれないという解説をしました。この点に対し、極めて明確に自社のイノベーションを定義し、そのための体制作りを行い、そして日々経営陣がそこに向けての活動の重要性を社員に伝えている会社に日立があります。今回はその日立のイノベーションへの取り組みを紹介したいと思います。
1.気位ばかり高い鈍重な会社から顧客起点の俊敏な企業へ
私事で恐縮ですが、私が大学卒業後最初に就職したのが日立系の会社で、その会社は顧客として、そして仕入先としても親会社である日立製作所の取引の比重が極めて高く、私も日立製作所との接点の大変多い仕事をしていました。私のそこでの経験から、またその後の経営コンサルタントとしての経験から、私は、日立は気位ばかり高く鈍重な会社だと認識していました。
そして、その後21世紀の初頭、日立は他のエレクトロニクス企業と同様、アジアの新興国などの急激な台頭や日本経済の低迷を受け、数千億円におよぶ赤字を計上します。しかし、それをきっかけに、日立は大きく変わりました。どう変わったか?気位ばかり高い鈍重な会社から、顧客起点の俊敏な企業への転換です。
2.日立の目指す事業:社会イノベーション
日立は、その存在目的を社会への新たな価値の創出と位置付けました。日立は電力システムをはじめとする社会インフラのビジネスを長年手掛けていましたので、その分野の知見があり、社会を広く市場と捉え、そこに新しい価値を実現・提供することと定めました。
まさに、社会は今後とも大きな課題が次から次への生じ、そこに生活する人間にとって極めて大きな影響を与えるもので、社会では「新たな価値」創出のニーズは枯れることは決してありません。
加えて、日立の強みが、情報システムの保有です。日立は電力、情報システム、家電、半導体など事業展開をしてきていましたので、その中に情報システムがありました。まさに情報システム分野は、新たな大きな技術の潮流であるAIやIoT技術という大きく長く効果の続く追い風の領域です。それを社会課題解決へ適用することは、大きな武器になります。
このような背景の下、日立は自社の行くべき方向を社会イノベーションの実現と設定しました。
3.社会イノベーション、大勝負の推進
日立はこの社会イノベーション実現に向けて大きく踏み出し(事業ポートフォリオの大胆な変革など)、研究開発の分野でも以下の活動を強く推進してきました。
(1)社会イノベーション実行体制の構築
日立の展開が素晴らしいのは、社会のイノベーション実行体制を戦略的かつ具体的にデザインしたことです。研究開発体制を「顧客起点の研究開発」という視点で再編しました。そして、研究者を顧客接点の最前線におき、顧客と共に顧客の潜在的な課題を抽出するという活動を開始しました。
(2)顧客を理解する方法論の構築
しかし、従来は研究所内で内向きの仕事をしてきた研究者にとって、顧客と共に隠れた課題を...
(3)経営陣の繰り返しの社会イノベーションの重要性の発信
日立の経営陣は、社内外に向けて、あらゆる場で社会イノベーションの推進に関する情報発信を自らの言葉で行ってきました。この活動は、日立の変革の開始以来ぶれることなく続けられています。ちなみに、CTOとしてこの推進の旗振り役を担ってきた小島啓二氏は、昨年社長兼COOに昇格しました。
次回に続きます。