現在、イノベーション実現に向けての「思考の頻度を高める方法」を解説していますが、そのための2つ目の要素「同じ一つの行動をするにしても思考の頻度を増やす」さらにはその中の3つの視点の内、前回は、最初にあげた分析的に見る(虫の目)の具体的な活動の内の1つ目として「触覚をもって感じる」について解説しました。今回は嗅覚について解説します。
【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その152)へのリンク】
◆関連解説記事 行動を起こすことで得られるのは、情報や経験だけでなく、そのコンテキストや新たな感覚・感情や充実感
9.嗅覚は視覚や聴覚ほど活用されていない
前回は触覚について解説しましたが、嗅覚も同様に活用されていない感覚です。嗅覚は、視覚や聴覚と同様に必ずしも主体的な活動をしなくても、受動的に感じることができる感覚ではあります(匂いが漂ってくるなど)。しかし、微小な化学物質を介在とするため、匂いの源に近接していないと、またはその風下にいないと感じることができないという制約があります。この制約のため、嗅覚は視覚や聴覚ほど感じる機会は多くはありません。
嗅覚を活用し職業に、調香師、医者、農家、食品などの生産者があります。しかし、そのような理由からか、視覚や聴覚を利用した職業従事者に比べ、その利用者の数は遥かに少ないように思えます。
(1)嗅覚を利用したイノベーションの可能性
嗅覚についての様々な逸話を耳にすると、その利用価値は大きいのではないでしょうか。
ホンダの創業者の本田総一郎は、エンジンの排気ガスの匂いが大好きだったという話があります。本田宗一郎のそのような嗜好(エンジンの排気ガスのにおいに敏感)は、エンジンへの関心に加え、実際のホンダのエンジン開発に大きく貢献したはずです。
また作曲家のドビッシーは、音楽の中でい匂いを想起するような曲を作ったと言われています。彼の代表作の「月の光」では、夜の風景や水面の揺らぎと匂いを関連付けて作曲したと言われています。さらには、より直接的に「香り(Les parfums de la nuit)」という曲も作曲しています。
その他の例として、アップルのスティーブ・ジョブズは、ユーザーに感動を与えるために、製品を開封した時の匂いにまでこだわったという話があります。製品の細部にこだわりを持つスティーブ・ジョブであれば、さもありなんという逸話です。
さらに、ニュートンがリンゴの落下に着想を得て、万有引力の法則を思いついた逸話は有名ですが、そのきっかけにリンゴの匂いがあったという話もあります。
(2)匂いは強く関連する事象を思い出させる
個人的経験ですが、ある匂いを感じることで、過去に起こったことを強く思い出すということがあります。例えばレストランなどで漂ってきた香辛料の匂いを嗅ぐことで、過去に行った東南アジアの街の情景をビビッドに思いだすなどです。
(3)人間は一つの感覚を失うと他の感覚への注力度が拡大
人間は、事故や病気、そして先天的に一つの感覚を失うと、他の感覚への注力度が拡大するという事実がありそうです。つまり、そのようなことがない人にとっても、五感に目を向け、そこへの注意力を活用する余地は大きいということになります。嗅覚も...
(4)普段から嗅覚に注意を向け活動する
冒頭に、嗅覚は受動的に感じることのできる感覚であると述べました。そのため、日々の生活の中で、漂ってくる匂いに関心を持つことが大事でしょう。しかし、さらに一歩進めて、日々の生活の中で、匂いを嗅ぐために鼻を対象物に近づける、さらには対象物の匂いを発散させるために対象物を指で擦ってみる(例えば香草などを対象に)といった、積極的に嗅覚を利用する機会を拡大するということも、やってみてはどうでしょうか。
次回に続きます。