機械や構造物について論じる時に、よく「剛性」という言葉が出てきます。身近な場面ではクルマの操縦性や乗り心地の話題で「ボディ剛性が高いので…」などと使われたりしますね。
この「剛性」とはどのような工学的意味を持った言葉なのでしょうか?「強度」との関係も含めて、わかりやすく解説します。
剛性とは何か?
剛性とは、材料に加えた曲げやねじりの力に対する「変形(寸法変化)しにくさ」のことで、単位変形を起こすのに必要な力(荷重/変形量)で表されます。剛性が高い(大きい)と変形しにくく、逆に剛性が低い(小さい)と変形しやすくなります。剛性のことを「こわさ」と呼ぶこともあります。また「変形のしやすさ」(変形量/荷重)を柔性と呼びます。
剛性と強度の違いを解説
剛性が「力が加わった時の変形しにくさ」を表すのに対して、強度は「力が加わった時の壊れにくさ」、すなわち力が加わって変形してもその力を除けば元の形状に戻る限界や、力が加わって変形しても破断しない限界を表します。元の形状に戻る限界を表すのが弾性限界もしくは降伏点、破断しない限界を表すのが引っ張り強さ(引張強度)です。
頑丈な材料の選定方法
「頑丈」という言葉には、「力が加わっても変形しにくいこと」すなわち剛性が高いことと、「力を除けば元の形状に戻ることや破断しないこと」すなわち強度が高いことの2つの意味が含まれます。この2つを分けて考え、設計対象の機能を満たすためにはそれぞれの特性がどれだけ必要かを判断基準にして材料を選定するこ...
剛性の指標
材料の剛性を表す指標はヤング率(縦弾性係数:たてだんせいけいすう)で、数値が大きいほど変形しにくくなります。金属材料の例を挙げると、鉄鋼のヤング率は206×103N/mm2、アルミ合金のヤング率は71×103N/mm2で、鉄鋼はアルミ合金の約3倍の剛性があり、同じ力を加えるとアルミ合金は鉄鋼の3倍の変形(たわみ)を生じることになります。
【図1】剛性の違いによる変形(たわみ)の違い
ヤング率(縦弾性係数)とは
ヤング率とは、フックの法則が成立する弾性範囲でのひずみと応力の関係を表す数値で、
で求められ、応力-ひずみ曲線では直線部の傾きに相当します。
ヤング率は「鉄鋼」や「アルミ合金」など材料の大分類が同じならほぼ同じになります。つまり大分類が同じなら剛性は同等ということになります。
高い強度を求める場合、合金鋼がおすすめな理由
剛性が材料の大分類で決まるのに対して、強度は材料の小分類(品種)や熱処理によって異なってきます。鉄鋼では炭素鋼よりも合金鋼のほうが、大きな力を加えても壊れにくくなります。
例えば炭素鋼のSS400と合金鋼のクロムモリブデン鋼(SCM:クロモリ鋼)を比較すると、SS400の降伏点が245N/mm2なのに対してSCM435の降伏点は785N/mm2以上なので、同じ力を加えた後に力を取り除いても、SS400では変形が残るがSCMでは元の形状に戻る場合があることがわかります。高い強度が必要な場合に合金鋼の使用を考える理由はここにあります。
降伏点とは
降伏点とは、材料に力を加えて元の形状に戻る限界、すなわち力の大きさに比例してばねのように変形する弾性変形から、力を取り除いても元に戻らず永久的な変形が残る塑性変形へ遷移する時の応力の値で、材料の強度を示す指標のひとつです。機械や構造物の構成部品は弾性範囲内での使用が前提なので設計指標として降伏点がよく使われ、材料特性の表にも記載されています。
設計対象に求められる剛性が十分に高い材料でも、降伏点が想定される応力より低ければ変形・破損してしまうので使用に適しません。
引っ張り強さとは
引っ張り強さとは材料に力を加えて破断するまでに生ずる最大応力のことで、降伏点と並ぶ材料の強度の指標です。
降伏点を超えてさらに力を加えていくと、材料は塑性変形しながら伸びてやがて破断します。このときの最大の応力の値が引っ張り強さで、その材料が持つ限界の強度を意味します。鋼材の場合には降伏点の1.2~1.5倍程度の値を示します。
材料の特性や選定方法を学ぶなら
ものづくりドットコムには、知識・経験豊富な専門家が執筆した記事や登壇するセミナーなど、材料の特性や選定方法に関するコンテンツが多数あります。これらコンテンツを通じて必要な知識を学ぶことで、より適切な材料の選択ができるようになると思います。
まとめ
剛性とは、材料に加えた曲げやねじりの力に対する「変形しにくさ」のことです。剛性が高いと変形しにくく、剛性が低いと変形しやすくなります。剛性を表す指標はヤング率(縦弾性係数)で、数値が大きいほど変形しにくくなります。
剛性が変形しにくさを表すのに対して、強度は壊れにくさ、すなわち変形しても力を除けば元の形状に戻る、または破断しない限界を表します。材料を選定する際には、剛性と強度を分けて考え、それぞれどの程度必要かを判断することが重要です。