前回のJIS G4053 & 合金工具鋼鋼材 耐衝撃工具鋼と冷間金型と熱間金型:金属材料基礎講座(その112)に続けて、解説します。
金属材料の組織を顕微鏡で観察することは大変意義があります。金属組織観察では結晶粒径、析出物の組織、ひずみ、不純物介在物などが観察されます。例としてS45Cの金属組織を図1に示します。
通常、金属製品は多くの加工、熱処理、溶接、表面処理などの工程を行い最終製品となります。すなわち、金属材料は製造過程で行われるほぼ全ての加工を金属組織として表現しており、金属組織は製品の品質と直接的な関係があるといえます。これが金属組織を重要視する理由です。金属組織に現れる固溶体や金属間化合物は合金状態図に示されます。一方でマルテンサイト組織のような非平衡組織は状態図に直接的には描かれていませんが、実用上重要な組織です。
金属組織観察の手順を図2に示します。
図2.金属組織観察の手順
正確な金属組織を観察するためには研磨とエッチングが特に重要であり、熟練者と初心者では差が出やすいです。しかし、近年では自動研磨機などの装置が普及したこともあり、誰でも行えるようになってきています。
組織観察作業において最も重要なことは、試料に余計な加工ひずみや熱を加えないことです。組織観察作業において余計な加工ひずみや熱が加えられると、試料の組織に変化が生じます。すると、本来観察すべき組織が観察できなくなったり、研磨キズを結晶粒界と間違えたり、あるはずのない加工ひずみを観察したりすることになります。その結果、金属組織の評価や判断を誤ってしまうことになります。
次回に続きます。