今回は顧客を対象として議論しましょう。情報・知識の『源』を多様化するためには、どのような顧客とコンタクトすれば良いのでしょうか?
顧客の情報を活用する場合、一番手っ取り早いのが既存の重要顧客の情報です。重要顧客ですから既に多くを知っていると考えるかもしれませんが、現実には顧客について知らないことは多いものです。別稿でTADという「市場」を見る3つの軸を説明しました。時間軸:Time、分野軸:Area、深度軸:Depthの3つで、時間軸は、市場を長期的な視点で見る、分野軸は広く定義して見る、深度軸は市場(顧客)をより深く分析的に見る、ことを意味します。このTADは、基本的に複数の顧客から構成される「市場」を対象としていますが、個別の「顧客」にも当てはまる概念です。
まず、時間軸ですが、既存の重要顧客とのコンタクトは、目先の受注や売り上げを強く意識してお付き合いしているものです。しかし顧客を見る時間軸を長くし、この顧客は3年後、5年後、10年後に向けて何を考えているのかを知ろうとすることで、その顧客の見え方が変わってくるものです。そうすると、これは次の軸の分野軸と直接的に関係してくるものですが、既存のコンタクト先とは違う部署との接触が必要になります。例えば、研究所や技術企画、新事業開発、経営企画といった部署です。これら部署は、普段付き合いのある、開発部門や購買部門より、より長い視野で動いています。多くの企業が、重要顧客と言っても、このような部門と日頃コンタクトを持っていないでしょう。
そればB2B企業に限らず、消費者を対象としているB2C企業にも当てはまります。その消費者が、3年後、5年後、10年後にどう変わり、どのようなニーズを持つかに関心を持ち、そのような情報を収集することが重要です。もちろん消費者の場合には、B2Bの顧客のように長期の将来を良く考えている別の部署はありませんので、その点が難しいかもしれません。しかし、過去の消費者がどう変わってきたかの記録を取ることで、ある程度の可能性を持って消費者の将来を予測することはできます。例えば、女性下着メーカーのワコールは、女性の体形の変化の実測データを1964年から継続的に収集しており、現在では4万以上のデータを蓄積しています。
時間軸には、上の別の新しい製品アイデアを求めて、顧客の将来のことを考えるという軸の他に、既存製品を購入した後、そしてその前の検討段階にも、その製品について顧客はどのような活動を行い、どのようなことで困っているかを考えるという時間軸もあります。米国の会計ソフトのメーカーであるイントゥイットは、顧客が店舗で会計ソフトを探す段階から観察し、その購入後も自社のソフトを店舗で購入した顧客に頼み込み、その顧客が家にそのソフトを持ち帰り、封を開けて使い始める所から観察しました。顧客が製品のサプライヤーと強いコンタクトを持つのは、その製品を買うまでの比較的短い期間です。したがって、このような環境において...
ただし、既存の重要顧客だけの情報を利用していると、まさに自社の多様な情報の活用を阻害し、市場を見誤る可能性が大きくなります。既存の重要顧客の意見は、受注に結び付く可能性が高いため、どうしてもすぐに飛びついてしまうという危険性を持ちます。常に市場の情報の1つに過ぎないということを念頭において、それら情報を活用する必要があります。