1.日本では人気のないディスカウント・キャッシュフロー法
欧米では、研究開発テーマを含め、プロジェクトの財務評価に利用されている指標に、ディスカウント・キャッシュフロー(DCF Discount Cash Flow)法があります。DCF法は、現金の出入りが伴うプロジェクトに広く利用されています。
プロジェクト期間で毎年の現金の出入(キャッシュフロー)を算定し、その現金を現在の価値に算定しなおし、それらを年毎に現在での価値を合計し、そのプロジェクトの現時点での評価を絶対金額もしくはROIの点から定量化するものです。
しかし、日本企業ではあまり人気がありません。理由は、算定には前提となる多くの数値を設定するのに手間が掛かり、加えてその割には、前提数値をどう置くかにより、結果が大きく変わるという点があり、またそもそもあまり定量的な評価を好まない日本の管理職・経営陣の考え方にあっていないからではないかと思います。
しかし、前提となる数値を手間を掛けても設定するという作業は、ステージゲート法の重要な特徴の一つである「フロントローディング」そのものであり、その点でDCF法はステージゲート法と相性が良く、また、それゆえ有効な手法ということが言えます。
2.DCF法の特徴その1:現金の出入(キャッシュフロー)に基づく
DCF法は、難しい手法ではありません。上でも述べましたが、プロジェクトの期間にわたり、現金の出入を算定し、それに基づき、そのプロジェクトの現在の価値を、金額やROIで示すものです。一般的には、毎年の収支は会計上の利益で表されますが、DCFでは会計上の利益ではなく、現金の出入、すなわちキャッシュフローのバランスで示されます。
利益とキャッシュフローとでは何が違うかと言うと、例えば、利益は現金が支払われなくても、支払われることを前提に利益を計算しますが(例えば利益の前提の一つの売上は、売掛金という形で現金が手元に入ってこなくても、売上として計上されます)、キャッシュフローは、手元に入ってきた現金、実際に支払った現金を言います。
3.DCF法の特徴その2:現金には時間価値がある
上で、DCF法は、難しい手法ではありませんと述べましたが、DCF法には、考慮しなければならない重要な点が一つあります。それは現金の時間価値です。1年後の100万円は、現在の価値としては100万円の価値はありません。例えば、96万円の価値しかありません。なぜなら、1年後に本当に100万円入ってくるかどうかにはリスクがあるからです。
また逆に今手元に96万円あれば、それを銀行に預けることで、例えば4万円の利子が付き、1年後には100万円になります。この利子は、一見小さく見えますが、長期になればなるほど、馬鹿にならない金額になります。
上の1年後の100万円が現在価値の96万円になるとすると、10年後の100万円は、100万円×(96/100)^10=66.5という計算により、66.5万円の価値しかありません。33.5%も減ってしまいます。
この場合の1年後の100万円を現在の96万円に割り戻す数値を割引率といいますが(この場合、100/96-1=4.17%が割引率)、それが10%になると、10年後の100万円は現時点で換算すると38.6万円(=100×(1/(1+10%)^10)の価値しかありません。
ちなみに、この将来のキャッシュの金額を現在の価値におきなおした金額を「現在価値」と言います。
4.DCF法で算定された結果は正味現在価値(NPV)もしくは内部収益率(IRR)で表される
正味現在価値(NPV Net Present Value)もしくは内部収益率(IRR Internal Rate of Return)で表されます。正味現在価値は、プロジェクト全体にわたるキャッシュフローを上の割引率を使って、現在価値を計算したものを合計することで得られます。
正味現在価値が『正』であれば、投資するキャッシュより、その投資から得られるキャッシュが多いということ...