顧客価値評価の視点,QCDはMECEではないとは

更新日

投稿日

1.なぜQCDではダメのか?

 企業の活動のディシプリンとして日本企業で最も広く使われている言葉に、QCDがあります。つまり品質、コスト、時間です。生産財の顧客が価値を見出す視点からいうと、大変よさそうです。なぜなら、顧客は自社の製品やサービス、また社内の業務の品質(Q)を向上させ、全体のオペレーションのコスト(C)を低減し、何事も速くやる(D)、には企業は大きな価値を置きそうです。

 しかし、生産財事業評価における顧客価値を考える場合には、2つの問題があるように思えます。

 1つ目に、事業評価においては、顧客が価値を認識する全ての領域をカバーしている必要があります。QCDは例えば、自社が提供する部品により、顧客の製品の魅力が向上した場合は、カバーできていないように思えます。つまり「網羅性」がないことです。

 2つ目に、時間(速い・早い)はなぜ顧客に価値を提供するのでしょうか?もともとQCDのDはDeliveryのDであり、何事も速くするのが良いということがあります。でも速いとなぜ良いのでしょうか?在庫が圧縮できる。顧客の突然のニーズ発生に対応できる。等々いろいろな価値に結びつきそうです。つまり、DがCやQの向上に結びつくということです。つまり、「排他性」がないこと、そしてそれと関連して「最終価値」を表しているのではないことです。

 ここまでの議論で、既にお気づきの方もあると思います。QCDはMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive ダブリなく、漏れなく)ではないのです。特に前者の網羅性は問題です。評価やテーマの発想の視点から外れてしまう価値があってはいけません。また「最終価値」を表していないという面もあります。「そもそも」企業は、どういう点に価値を認識するかを考える場合、この点は重要です。

 

2.CUPOSが最終価値を表す

 生産財の顧客は、最終的に何に対して喜ぶのでしょうか?まず大きくは、自社の利益が増えることです。なぜなら、利益を創出することが企業の最大の存在価値だからです。更に利益はどうしたら増大させるかを考える必要があります。それには一つはコスト(Cost)を下げること。次に自社の製品がたくさん売れること(Unit)。そして、自社の製品の販売単価(Price)を上げることです。

 生産財の顧客は、利益だけに価値を見出していて良いのでしょうか?そうではないでしょう。社員や組織のことを考えなければなりません。労働環境、健康安全、そして自己実現や自己の能力向上を通じての精神的な充足、そしてそれらを通しての組織力の強化といったことです(Organization)。そのような配慮は、社内だけのものではありません。社外に対しても企業は責任を持ちます。周辺環境や地球環境等、社会(Society)への配慮や貢献が求められます。

 このように、CUPOSモデルは、生産財の顧客(企業や機関)が認識する最終価値を表しています。

 

3.C...

1.なぜQCDではダメのか?

 企業の活動のディシプリンとして日本企業で最も広く使われている言葉に、QCDがあります。つまり品質、コスト、時間です。生産財の顧客が価値を見出す視点からいうと、大変よさそうです。なぜなら、顧客は自社の製品やサービス、また社内の業務の品質(Q)を向上させ、全体のオペレーションのコスト(C)を低減し、何事も速くやる(D)、には企業は大きな価値を置きそうです。

 しかし、生産財事業評価における顧客価値を考える場合には、2つの問題があるように思えます。

 1つ目に、事業評価においては、顧客が価値を認識する全ての領域をカバーしている必要があります。QCDは例えば、自社が提供する部品により、顧客の製品の魅力が向上した場合は、カバーできていないように思えます。つまり「網羅性」がないことです。

 2つ目に、時間(速い・早い)はなぜ顧客に価値を提供するのでしょうか?もともとQCDのDはDeliveryのDであり、何事も速くするのが良いということがあります。でも速いとなぜ良いのでしょうか?在庫が圧縮できる。顧客の突然のニーズ発生に対応できる。等々いろいろな価値に結びつきそうです。つまり、DがCやQの向上に結びつくということです。つまり、「排他性」がないこと、そしてそれと関連して「最終価値」を表しているのではないことです。

 ここまでの議論で、既にお気づきの方もあると思います。QCDはMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive ダブリなく、漏れなく)ではないのです。特に前者の網羅性は問題です。評価やテーマの発想の視点から外れてしまう価値があってはいけません。また「最終価値」を表していないという面もあります。「そもそも」企業は、どういう点に価値を認識するかを考える場合、この点は重要です。

 

2.CUPOSが最終価値を表す

 生産財の顧客は、最終的に何に対して喜ぶのでしょうか?まず大きくは、自社の利益が増えることです。なぜなら、利益を創出することが企業の最大の存在価値だからです。更に利益はどうしたら増大させるかを考える必要があります。それには一つはコスト(Cost)を下げること。次に自社の製品がたくさん売れること(Unit)。そして、自社の製品の販売単価(Price)を上げることです。

 生産財の顧客は、利益だけに価値を見出していて良いのでしょうか?そうではないでしょう。社員や組織のことを考えなければなりません。労働環境、健康安全、そして自己実現や自己の能力向上を通じての精神的な充足、そしてそれらを通しての組織力の強化といったことです(Organization)。そのような配慮は、社内だけのものではありません。社外に対しても企業は責任を持ちます。周辺環境や地球環境等、社会(Society)への配慮や貢献が求められます。

 このように、CUPOSモデルは、生産財の顧客(企業や機関)が認識する最終価値を表しています。

 

3.CUPOSはMECE(網羅的・相互排他的)

 またCUPOSモデルはMECEです。金銭面で顧客が価値を最終的に認識するのは、Cost、Unit、Priceと考えて良いでしょう。財務面で言うと、バランスシート上での財務体質を向上させたいという顧客ニーズがありますが、それらもコストやリスクの回避という意味でCostに含んで考えます。

 非金銭面では、ステークホルダーの議論から言うと、他のステークホルダーも存在しますが(例えば行政)、それはSocietyを社外と定義することで、このモデルの中で網羅することができます。

 このようにCUPOSの要素は、全て相互排他的になっているのです。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「ステージゲート法」の他のキーワード解説記事

もっと見る
革新的テーマ発見のための自社の強み、コア技術

 市場でニーズを見つけ、そのニーズに向けて製品を実現するための技術があれば、製品・サービスを生み出せます。しかし、そこから自社が確実に収益を上げるには、潜...

 市場でニーズを見つけ、そのニーズに向けて製品を実現するための技術があれば、製品・サービスを生み出せます。しかし、そこから自社が確実に収益を上げるには、潜...


マジョリティ 研究テーマの多様な情報源(その8)

 『非』重要顧客から情報・知識を集める活動において、『非重要顧客』は情報の活用の面から3つのグループ、すなわち、新製品購入時期で区分されるライトハウスカス...

 『非』重要顧客から情報・知識を集める活動において、『非重要顧客』は情報の活用の面から3つのグループ、すなわち、新製品購入時期で区分されるライトハウスカス...


市場を広く捉えて革新的テーマを手に入れる

1.「お客様第一主義」症候群  現在の顧客は企業にとって大変重要です。とにかく、直近の売上を上げるための拠り所だからです。また、中には次の製品について直...

1.「お客様第一主義」症候群  現在の顧客は企業にとって大変重要です。とにかく、直近の売上を上げるための拠り所だからです。また、中には次の製品について直...


「ステージゲート法」の活用事例

もっと見る
積極的情報発信の事例

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...


オープンイノベーションにおけるライトハウスカスタマーの事例2件

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B...

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B...


3Mにおける組織内の知識・情報活用の事例

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...