前回はゲートでの財務評価のディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法を説明しましたが、今回はDCF法による財務評価の価値の議論をしたいと思います。
5.DCF法の価値(その1):最も合理的なテーマ・プロジェクト評価指標
DCF法を使ってプロジェクトの価値を算出する指標にはNPVとIRRがありますが、この2つの指標は最も合理的な財務評価指標であることが大きな価値です。つまり、プロジェクトは、資金調達コスト以上のリターンがあることが唯一の評価基準ですが、まさにDCF法を使ったNPVやIRRは資金調達コストとの直接の比較で、そのプロジェクトの価値を金額(NPV)やROI(IRR)により数値で明示することができるのです。つまり理論上、最も合理的な評価指標ということができ、この点はあまり議論の余地がないと思います。
6.DCF法の価値(その2):前提条件を網羅的に見るきっかけを与えてくれる
しかし、DCF法の大きな欠点の一つに、算定に手間が掛かることが挙げられます。DCFを計算するには、前提となる数値を全て網羅的に設定しなければならないからです。
しかし逆に言うと、事業化に向けて明らかにしなければならない点全てについての見解を持つことを強制してくれるものです。つまり事業化で考えなければならない前提条件を網羅的に見るきっかけを与えてくれるということです。
7.DCF法の価値(その3):重要な前提の早期警戒情報を発してくれる
もう一つのよく挙げられるDCF法の欠点が、算定時の将来についての不確実性故に、ある程度の想定で前提数値を設定する必要がありますが、その前提数値を少し変えるだけで(感度分析と呼びます)、DCF法を使って計算するNPVやIRRの数値が大きく変動するという場合があることです。
しかしこの点についても、見方を変えると、結果が大きく変わる前提の数値がそのように曖昧なままに設定して良いのか?ということにもなります。その前提の数値を曖昧にしたままということは、実質的にそのプロジェクトの評価ができていないということを意味します。
従って、その前提となる数値を徹底してそれ相当の精度で予測することが「極めて」重要であるということを意味します。NPVやIRRを算定するプロジェクトチーム側がそのような自覚を持ち、特に重要前提数値については、十分な検討の上NPV/IRRを計算しなければなりません。
しかし、往々にしてプロジェクトチーム側はゲートでの承認を得たいが故に、楽観的に、場合によっては捏造した数値を使う可能性はなきにしもあらずです(但しこの問題はDCF法に限った問題ではありませんが)。従って、ゲートキーパー側は、DCF法についてのこの問題点の理解の上で、ゲートミーティングでは、結果に大きく影響を与える前提数値は何か?その数値を今回の計算の中ではどのように考えたのか?についてプロジェクトチーム側に質し、プロジェクトチームがその点について適正かつ誠実に算定の前提を置いているのかを検証する必要があります。常識を働かせればこのプロジェクトチーム側の回答により、その信憑性・信頼性がかなりのレベル把握できる筈です。
また、プロジェクトチーム側として、NPVやIRRを最初に算定する時点(例えば開発開始前)では、前提となる数値の確度はどうしても低くなるということはあるでしょう。その場合、DCF法を使うことで、プロジェクトチーム側のその認識が生まれ、その後の活動の中でできるだけ早い段階で、より信頼の置ける前提数値を出すことに意識を持ち続けることで、プロジェクトが進展するに従い、より信頼性の高いデータが集まるようになります。
この点からは、DCF法は最後の段階で計算するのではなく、できるだけ早い時期から算定することが望ましいと思います。
8.DCF法の価値(その4):コミュニケーションツール
通常DCF法を使ったNPVやIRRを算定してもらうために、財務部門が中心となり基本算定モデルを造ります。そのモデルを共有することにより、算定の前提や算定法についてプロジェクトチーム側とエーとキーパー側で共通認識を持つことができ、最終の指標だけでなく前提となる数値の議論を効率的に進めることができるようになります。つまり、財務面からの評価をするための、プロジェクトチームとゲートキーパーの間でのコミュニケーションツールとなるということです。
また場合によっては、プロジェクトチームとゲートキーパーの間で、前提の数値について議論になった場合、エクセルとプロジェクターがあれば、その場で前提となる数値を変えることでシミュレーションを行なうこともできます。
もちろんDCF法以外の財務指標でも同様のことができますが、上のDCF法の価値(その1)でも述べたように、DCF法で求めたNPVやIRRは究極の最も合理的...