パーム油のはなし(その1):食用油脂の知識(その2)

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    この連載では、食用油脂の知識を毎回、解説しています。前回の食用油の未来予想:食用油脂の知識(その1)に続いて今回は、パーム油のはなし(その1)です。

     

    「パーム油」最近ではかなり知られているのではないかと思います。パーム油に対する世間の印象は「不健康なもの」と「自然環境によろしくない」ということではないかと思います。「不健康なもの」という印象は、パーム油を構成する脂肪酸の概ね半分は「パルミチン酸」と呼ばれる「飽和脂肪酸」。太る、血中コレステロールが上がる、というのを連想されているようです。

     

    そして「自然環境によろしくない」というのは、パーム油主要生産国のマレーシアやインドネシアで熱帯雨林を切り開きパーム農園にしていること。自然や環境破壊、オラウータンなどの野生生物の生息域を減らし、生物多様性に負の影響を与えているという印象です。それと、知らないうちに口にしているということが印象をさらに悪くしているようにも思います。実際に、油脂の世界生産量の推移をみますと、2004年ごろにそれまで世界の油脂生産量世界1位であった大豆油をパーム油が追い抜きました。

     

    日本でも1960年台から年々輸入量が増加し、今では日本で最も消費されている菜種油に次いで2番目に多く消費されている油脂となっています。そんなに食べているの?と思われた方は多いのではないでしょうか。食品の原材料表示に「パーム油」なる原材料はみたことがない、と思いきやその多くが「植物油脂」という名で表示されていますし、業務用での使用が多いので、スーパーのお惣菜、菓子、加工食品に利用されています。ですが、パーム油=植物油脂というわけではありません。パーム油と他の油種、例えば大豆油や菜種油の混合油などもこういう表示がされる場合があります。でも、なぜそこまでパーム油が私たちの生活に浸透したのでしょうか。

     

    1. 酸化や劣化に強い油

    脂肪酸組成をみてみますと、飽和脂肪酸のパルミチン酸(炭素が16個に二重結合がゼロ)が35~48%、不飽和脂肪酸のオレイン酸(炭素が18個に二重結合が一つ)が...

    37~50%で、おおむねパルミチン酸とオレイン酸が1:1の組成と考えればよろしいかと思います。飽和脂肪酸は、酸素と反応する二重結合がないため酸化が起こりにくく、オレイン酸でも不飽和脂肪酸とはいえ二重結合が一つなので酸化しにくいのです。

     

    ちなみに必須脂肪酸のリノール酸は二重結合が二つ。同じく必須脂肪酸で話題のオメガ3(n-3)系であるリノレン酸は二重結合が三つあり、酸素と反応をして過酸化脂質になりやすい脂肪酸です。だから危険な脂肪酸だ、ということではありません。人が生きていくための大切な栄養素です。

     

    2. パーム油は用途が多彩

    パーム油は常温で固体の油です。融点が約36℃なので真夏の比較的暑い場所においておくと流動状となります。そしてこの油は、オレイン酸が多い液体部とパルミチン酸が多い固体部に分別することができ、液体部はパームオレイン、固体部はパームステアリンと一般的に呼ばれています。この分別で性質や物性が違う油にできてしまうところが、用途を多彩にしている理由の一つでもあります。さらにその利用は食品に留まりません。洗剤や化粧料などにも利用されているのです。大体ですが、パーム油全体で食品利用が8割、洗剤などの非食品が2割といわれています。

     

    どのような食品に利用されているかというと、食用油、フライ油、インスタント麺、パン、ペストリー、マーガリン、ショートニング、コーヒー用クリーム、冷凍食品、レトルト食品、ドレッシング、カレーのルー、フライドチキン、ドーナツ、フライドポテト、ケーキ、チョコレート、スナック菓子、アイスクリームなど。

     

    非食品では、石鹸、洗剤、トイレタリー製品、口紅、各種クリーム、シャンプー、デオドラント、歯磨き、医薬品、プラスチック、塗料、ペットフード、バイオ燃料など、

     

    それはそれは多彩に利用されております。

     

    3. パーム油は、大豆・菜種油などの液体油より比較的安価

    生産量が世界一になるほど生産性が非常に高く、効率的に多くの油を採油できることも理由の一つです。 パーム油は他の液体油とは違い、パームツリーと呼ばれる木になる果実(パームフルーツ)から採油します。以下がパームツリー(木)の写真です。

     

     

    このパームツリーの幹と葉の付け根にみられる房(Fruit Bunch)にパームフルーツとよばれる果実がぎっしり詰まっています。そしてそのフルーツの中身は外側の中果皮(果肉)と核(胚乳)からなっています(写真参照)。

     

     

    「生産性が非常に高く、効率的に多くの油を採油できる」と述べました。その理由は収穫面積1haあたりの油脂の生産量にあります。

     

    (1)収穫面積1haあたりの油脂の生産量

    • パーム油:3,800 Kg/ha 
    • 大豆油:550 Kg/ha 
    • 菜種油:1,200 Kg/ha

     (参考)日本植物油協会「世界に広がるパーム油」(https://www.oil.or.jp/info/64/page03.html)

     

    この生産量は、「土地生産性」ともよばれ、私たちが良く知っている大豆油、菜種油のそれよりも断然高く、高収量なのです。さらに、大豆や菜種は1年1作の単年性作物であるため、天候による年ごとの生産の変動が大きいという課題があります。これに対しパーム油は永年性の樹木であるため20年以上も収穫が可能で、天候による変動はあるものの1年間を通じて収穫が安定してできるという利点があるのです。

     (参考)日本植物油協会「世界に広がるパーム油」(https://www.oil.or.jp/info/64/page03.html)

    これが、世界一の生産量となり、比較的安価である理由です。

     

    4. 部分水素添加油脂の代替油脂として利用

    部分水素添加油脂とは、大豆油や菜種油などの液体油に水素を反応させ、二重結合を部分的に単結合にしたもので、その二重結合が減少した分、酸化しにくくなった油脂です。しかし、この処理をすることで通常はシス体である脂肪酸が異性化し「トランス体」になります。これが「トランス脂肪酸」とよばれるものです。このトランス脂肪酸の過剰摂取により心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが高まることが指摘され、世界保健機関(WHO)は2003年、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるという勧告(目標)基準を示しました。

     

    厚生労働省によりますと、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は、平均値で、総エネルギー摂取量の0.3%。トランス脂肪酸の摂取が多い方から上位5%の人についても、0.70%(男性)、0.75%(女性)で、WHOの勧告(目標)基準を下回っています。米国人のトランス脂肪酸の摂取量は、平均値で、総エネルギー摂取量の2.2%です。

     

    この部分水素添加油脂は、パーム油と同じで固体の油です。特に、製菓製パン用の油脂、マーガリン、ショートニングに最適な油脂なのです。 しかし、このトランス脂肪酸が社会問題化すると、同じ固体油でもトランス脂肪酸の含まないパーム油を代替油脂として多用されるようになりました。これがパーム油の利用にさらに拍車をかけたといえるでしょう。

     

    このパーム油をさらに増産したらよいのでは?と思われるかも知れません。しかし、栄養上の飽和脂肪酸過剰摂取の問題や環境保護の問題とたくさんの課題を抱えている油なのです。

     

    次回に続きます。

    【出典】中谷技術士事務所 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

     

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