クリーン化について(その146)クリーン化の基礎(その8)

【目次】

    ここのところ半導体製造の分野が盛り上がってきました。しかも、ナノメートルの世界を目指しています。しかしながら、その土台、基盤がしっかりしているのか、クリーン化の基礎をきちんと持ち合わせているかと言うことを心配しています。何事も基本、基礎がしっかりしていて、その上で高いレベルへの挑戦が可能だと考えています。行き詰まった時、基本に帰れと言いますが、その基本はどこなのかと言うことです。

     

    高いレベルを目指すとき、開発、設計、技術がしっかりしていても、それを具現化する現場の力は追いついているでしょうか。良く、理論的には可能だが・・・と言う言葉も聞きます。ものが作れなければ、現場との乖離は大きく、理論、理屈の話で終わってしまいます。いずれの企業の成功をも願いながら、桁違いの投資額ですから、損益分岐点はどの当たりになるのだろうか。企業間の差は顕著に出るのかなど気になります。その危機感を感じているので、クリーン化の基礎の部分に立ち戻り説明していきます。クリーン化について(その145)クリーン化の基礎(その7)の続きです。

     

    ◆ クリーン化の効果を考える

    クリーン化で得られた効果について事例を交え解説します。クリーン化の成果、効果で得られた利益をどのように使うか考えてみると良いです。つまり、自社あるいは自分の問題として引き寄せることです。

     

    (1)クリーン化で品質、歩留まり向上、そして利益も向上

    クリーン化活動を進める上で、その成果や効果は欲しい。それが具体的に数字などで見えると、活動は継続する。ある半導体製造の前工程の事例からクリーン化の成果、効果について考えてみます。例えば、その工場の一つのラインで、仮に月25億円の売り上げがあったとする(これはイメージしやすい数字にした。現在ではこんな数字よりはるかに多いでしょう)。この時歩留まりが1%上がると、月に2,500万円の純利益が得られる。しかもあまりお金をかけないでできることが沢山ある。

     

    会社が社員を集めて、あるいは上司が部下に対し、「品質向上に努めましょう。すると利益が増えます」 と言うだけでは、社員は“聞いただけ、人ごと、よそ事”で終わってしまうかも知れません。そこで、これらで得られた効果(利益)をどのように使うか考えてみると良い。つまり、“自社や自分の問題として捉えること”が重要です。具体的な項目ごとに解説する。

     

    ①注文が多い場合、稼ぎ続ければ歩留まり向上分が余計に儲かる

    これには説明は不要でしょう。

     

    ②注...

    文数に変化がない場合、その利益相当分の原料投入が減らせる

    原料投入を減らしても生産量は確保できるのです。それに付随して薬品、エネルギー(設備の稼働などの電気、ガスなど)、そして人工数も削減できる。この項以降は多少理論、理屈の部分も含みます。

     

    ③注文数に変化がなければ、その歩留まり向上分を次の製品開発や試作に充てることができる。

    これは、量産品と試作品を同じラインで流動する場合です。規模の大きな会社では、量産と試作のラインは別々に保有している場合もあるが、規模が小さいところでは、試作のために別ラインを持つ余裕はないでしょう。このようなラインで、実際にあった事例を紹介する。開発担当が試作品の投入を依頼しようとしたところ、現場責任者から「この忙しい時に試作品なんか流動できるか!」 と言って断わられてしまった。現場が強かった例です。あまり忙しいと冷静さも失うのです。ところが、流動していた製品のピークが過ぎ、徐々にラインに余裕が出て来た。

     

    そこで、先ほどの現場責任者が「次に作る製品はないのか」 と聞いたところ、開発担当は「あの時断られてしまったので次に投入する製品の準備はできていません」 との回答…。

     

    このようにならないために、日頃から製品の品質、歩留まりを向上させ、そこでできた隙間を活用し、試作品を流動させ、次のお客様の仕事も準備しておく努力をしたいものです。品質が悪いと、やり直し、手直し、不良廃棄分の補填投入などで設備に余裕がなくなる。そして時間や原材料のロスなどで忙しくなる。このように儲からない仕事をこなすことに追われ、忙しくなっているのかも知れません。しかしこれは、本当の生産活動ではない上、結果的にお客様を逃がしてしまうのです。

     

    ④注文に変化がなければ、その分作業者を減らせる

    歩留まり向上分投入数が減らせるので、少人数で従来通りの生産量が得られる。人が減れば固定費が減るなどのメリットも出てくる。また、その分を作業者の教育などに活用できる。

     

    ⑤歩留まりが向上すると不良が減少し、不良の分析、解析要員が減らせる

    歩留まり向上などの活動をしないと、次から次へと品質問題が発生し、そのため分析や解析作業が多忙になる。現場からは「早く分析してください。結果が出ないと本体が流動できません」 とつつかれる。工程中のあちこちに分析結果待ちの在庫がたまり、ラインの流動を阻害するのです。そのような状況下、急いで分析をしたら「毎日清掃をきちんとしていれば、このような問題は起きないよ」 ということになるかも知れません。日頃から現場をきちんと清掃をすることで、このような問題が少なくなれば、分析、解析の仕事が減り、そのための人や仕事を減らすことができる。あるいは分析、解析担当は、その余力でもっとレベルの高い分析、解析に取り組むことができる。

     

    ⑥注文に変化がなければ、原料投入が減らせ、在庫の減少や納期短縮ができる

    注文数が一定なら、歩留まり向上分の原料投入が減らせる。すると流動在庫が減り、製品の流動スピードが速くなる。高速道路の渋滞と同じで、納期短縮に繋がる。私はこの考えを、昔の洗濯機に例えて説明している。

     

    ◆ 適正在庫の考え方を昔の洗濯機に例える

    昔の洗濯機は、同じ方向にグルグル回っていて、上から覗くとその様子が良く見えるものがあった。そこに少し溜めすぎた洗濯物をドンと入れると、たちまち回転が遅くなる。もしかすると止まってしまうかもしれない。これでは洗濯物を入れ過ぎだと、洗濯物を間引くと、また回転が元の速さに戻る。これは理論理屈で考えなくても、直感で分かる。それをあえて理論、理屈で考えてみると、洗濯物をたくさん入れたら回転が遅くなった。これは、洗濯物という製品同士がお互いに足を引っ張り、回転が遅くなるのです。

     

    逆にある程度間引くと回転が元の速さに戻るわけです。これは、在庫が少ないと製品が早く流れる、在庫回転率の考え方と同じです。現場責任者は、自分の職場にこれ以上在庫があると、製品の流れが悪くなることを感覚で把握したり、数字やデータで把握している方も多いでしょう。つまり、適正在庫の考え方です。 

     

    私の経験は、履歴の、“ルールは変えられる”のところでも触れたが、その最後の部分を紹介する。急ぎたいのに航空機からなかなか出られない。帰宅はたいてい金曜の夕方なので、列車や、駅のホームも人が溢れ、なかなか進まない。人が閑散としている日中ならすいすい動けるのに、と言う部分です。

     

    このことを冷静に考えてみると、私と言う人が早く行きたいのに、人が邪魔になってなかなか進まない。これが平日の日中だったらスムーズに移動できる。人の移動を人が邪魔をするという在庫回転率と同じ考え方ができる。いずれも体験学習から得たことです。このように人ごとではなく、自分の問題として引き寄せる、捉えることが大切です。そして自分たちの努力を数字に置き換えてみると、次の行動に繋がって来るのです。

     

    次回に続きます。

     

    クリーン化のこと、活動の進め方、事例など個別に対応が必要でしたら、ものづくりドットコムを通じてご連絡ください。可能な限り対応致します。また、セミナー、講演会なども対応致します。

    【参考文献】 
    清水英範 著、 「知っておくべきクリーン化の基礎」諷詠社 2023年
        同    電子版 「知っておくべきクリーン化の基礎」、諷詠社 2023年
        同   「日本の製造業、厳しい時代をクリーン化で生き残れ!」諷詠社 2012年

     

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