・前回の クリーン化について(その155)クリーン化の基礎(その17)の続きです。
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ここのところ半導体製造の分野が盛り上がってきました。しかも、ナノメートルの世界を目指しています。しかしながら、その土台、基盤がしっかりしているのか、クリーン化の基礎をきちんと持ち合わせているかと言うことを心配しています。何事も基本、基礎がしっかりしていて、その上で高いレベルへの挑戦が可能だと考えています。行き詰まった時、基本に帰れと言いますが、その基本はどこなのかと言うことです。
高いレベルを目指すとき、開発、設計、技術がしっかりしていても、それを具現化する現場の力は追いついているでしょうか。良く、理論的には可能だが・・・と言う言葉も聞きます。ものが作れなければ、現場との乖離は大きく、理論、理屈の話で終わってしまいます。いずれの企業の成功をも願いながら、桁違いの投資額ですから、損益分岐点はどの当たりになるのだろうか。企業間の差は顕著に出るのかなど気になります。その危機感を感じているので、クリーン化の基礎の部分に立ち戻り説明していきます。
1. 防塵衣の劣化による静電性能低下問題
図1. 防塵衣の劣化事例
防塵衣の自然劣化の最大の原因はクリーニングです。長い間クリーニングを繰り返すことで、生地が傷むのです。防塵衣には縦、または格子状に黒い糸が織り込んであります。これは導電糸と呼ばれ、静電気を逃がす役目があります。ところが、これが擦り切れてしまうと、静電気の逃げ道が途切れてしまい、帯電した静電気がなかなか逃げません。図1の後工程(C社)防塵衣の数値に着目してください。後工程のものが悪いのではなく、更新しないで長年着続けてしまったことにより、導電糸が擦り切れてしまったものです。
このような防塵衣を吊るした状態で、両手で挟んで擦ると帯電量は3,000Vにもなりました(参考:図の吊るして擦り)。これは調査のためであり、実際には素手で防塵衣に触れてはいけません。塩分や皮膚などが付着します。このように防塵衣が帯電しても、静電気が自然になくなる(減衰する)には長時間かかります。その防塵衣を着用してエアシャワーを浴...
エアシャワーのジェット噴射が停止しても、10秒ほど経過しないと静電気は消えません。ジェットが吹き出している時は、エアシャワー内には沢山のパーティクルが浮遊しています。これが帯電している防塵衣に付着してしまいます。そしてエアシャワー停止後すぐにドアを開けると、防塵衣に付着したゴミ、また浮遊しているゴミも一緒にクリーンルームに持ち込んでしまうのです。見えない持ち込みの例ですね。
どうしてこのような防塵衣を着用していたのかの理由ですが、当時の該当職場の責任者が、防塵衣は1セット購入するだけでも非常に高価なうえ、一人2セット必要なので大変な金額になる。防塵衣を更新せず長く着続ければ、会社に余計な費用負担をかけさせなくて済むので経費削減ができると勘違いしていたのです。これも、白い服を着ただけで安心してしまう例です。企業規模が小さい場合、このようなことは起きるかも知れません。
2. 防塵衣のクリーニング
図2. 防塵衣のクリーニング
図2.の棒グラフに着目してください。左の部分は、きちんとクリーニングをした防塵衣からのパーティクル発塵量です。また、右側の部分はルール通りにクリーニングに出さなかったものです。目視では奇麗に見えても、手抜きをするとこんなに沢山発生するんです。これがクリーンルーム内に撒かれるわけです。このパーティクルの多くは塩分です。
防塵衣を着用してクリーンルーム内で様々な行動をすることで、僅かながらも汗をかきます。また半導体製造では熱処理工程があり、その周囲が高温になるので、汗の量は多くなります。人の汗が徐々に防塵衣に染み出て、これが乾くと様々な動作、行動でパーティクルとして飛散するのです。
防塵衣は、その現場のルールに従い定期的にクリーニングをすることが重要です。特に半導体前工程では、ナトリウム汚染による品質低下も考えられますので、先ほどの汗の影響も考慮する必要があります。従ってきちんとルールを守る必要があるのです。やはり白い服を着用しただけで安心してはいけないのです。
3. 防塵衣の生地
防塵衣の生地の素材はポリエステルです。ポリエステルの特徴は、繊維が非常に長く(長繊維)、水分を吸わないことです。つまり膨張収縮がないということです。そのため汗などの水分は吸収されずに、細かな織を伝わって広がります。毛細管現象です。それが乾いて飛散するのです。私たちが日頃着用する下着は綿のものが圧倒的に多いですね。
綿は短繊維であり、着用すると肌触りが良いうえ、水分を吸収しやすいのです。ただし短繊維なので繊維同士の絡みが少なく、それ抜け落ちゴミになるので、クリーンルームでは採用されないのです。なお、ナイロンは繊維の膨張、収縮が大きく、また耐熱性、耐薬品性ではポリエステルに比べ劣ります。これらからポリエステルが防塵衣の生地として採用される理由です。“なぜ防塵衣を着るのか”というように、一つひとつに“なぜ”があります。それを一人ひとりが理解し、行動することが大切です。その積み重ねがやがて大きな成果に繋がるのです。
4. 防塵衣に行き止まりを作らない
防塵衣を導入、採用するときはメーカーと相談しながら形状、タイプを考えていきます。メーカーに色々要望して行く場合、ポケットが欲しいと言う要望もされるところがあります。メーカーもその要望も叶えてくれる場合もあります。半導体などでの前工程では恐らくポケットは採用されないでしょう。ペン差しをつける場合、底を抜いておく工夫をしているところもあります。
防塵衣には行き止まりを作らないという考え方があります。行き止まりがある場合、その中にゴミが溜まるとか、クリーニングに出すときに確認が不十分で、シャチハタの印鑑が入っていて、そのままクリーニングしてしまい、他の防塵衣も赤く染まってしまった。それで弁償したという例もあります。シャチハタがあると言うことは、普通紙が持ち込まれているのかも知れません。洗濯機の中で激しい音がした。それで洗濯機を止めてみたらライターが入っていた。しかもかなり高熱になっていたと言う例も聞きました。極端な例でしょうが、クリーニングの業者から聞いた話です。実際にあるんですね。
自社内でクリーニングできる場合はこのような例は少ないでしょうが、クリーニングメーカーがいろいろな会社から依頼される場合は、各社の意識にばらつきがありますから、このようなことも起きるのです。
次回に続きます。
クリーン化のこと、活動の進め方、事例など個別に対応が必要でしたら、ものづくりドットコムを通じてご連絡ください。可能な限り対応致します。また、セミナー、講演会なども対応致します。
【参考文献】
清水英範 著、 「知っておくべきクリーン化の基礎」諷詠社 2023年
同 電子版 「知っておくべきクリーン化の基礎」、諷詠社 2023年
同 「日本の製造業、厳しい時代をクリーン化で生き残れ!」諷詠社 2012年
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